第122話「実践のあと」*


「……危ないところ、だった」


 あのままでも結界は大丈夫だったと思う。だが、結界内に出現した膨大な量の水が結界内という本来の容量以下の空間へすべて出現した場合、圧縮され、凶悪な水圧と言う形で俺と最強主人公ちゃんに襲い掛かっていたであろう。


「とっさに魔法で水を収納して目減りさせていなかったら、今頃ペシャンコだっただろうな」


 反応できていなかったらと思うとぞっとする。俺は濡れてはりついた衣服に不快感を覚えながらも俺の上に覆いかぶさっている何かに手をかけ。


「むにゅん」


 擬音にするならそれ以外の表現の見つからない感触に動きを止める。


「え゛」


 とか引きつった声が自然に漏れた。嫌な予感しかしない。覆いかぶさっている何かの一部が視界を塞ぐように顔に乗っているため前が見えて居ないのだが、考えればわかる。


「この浴場に存在する物体でこんなに柔らかいモノは――」


 人体。つまり、最強主人公ちゃんの身体しかありえず、高い確率で現在の状況は最強主人公ちゃんを含む俺以外に見られたら駄目な奴だ。


「急がねば」


 最強主人公ちゃんが異性に身体をまさぐられるのが大好きな変態さんでもなければ、意識があるならとっくに悲鳴を上げているだろう。つまり、現在は気絶中ということだ。


「これでは起き上がることもできん」


 と言う名目で、最強主人公ちゃんの身体を俺の上からどかし、犯行現場的な状況を隠ぺいせねばならない。


「こんなところで終わる訳にはいかん」


 気づけばコメントが一件増えていた。


『踏み台になるにはまだ早いですよ~。気合い入れて主人公ちゃんを導いてください』

 

 そう、声援を下さった読者のためにも。


「俺はまだ負けられ……ん?」


 俺的にはここで踏み台になってフェードアウトすれば殿下の修行に付き合うとかぐらいしかしなくて済んで結構助かるような気がするのだが。


「いや、この考察は後だな」


 余計なことを考えている時間はない。


「んっ」


 目も塞がれ、寝転んだ自分の上に人が乗った状態となると力も入れにくく、押しのけるのも本来なら一苦労だが、俺には魔法がある。身体強化を用いることで何とか最強主人公ちゃんを体の上からどけ。


「ふぅ、これで一安し――」


 ようやく明けることのできた目に映ったのは、濡れた髪が顔に張り付いた最強主人公ちゃんだった。


「っ」


 なんだか妙に色っぽいが、問題はそこじゃない。衣服がずぶ濡れになったことで身体の凹凸がくっきりと浮かび上がっているのだ。しかも濡れたことで服自体もちょっと透けてしまっている。


「これは――」


 目のやり場に困る。困るが、普通に考えるなら、服が乾くより先に最強主人公ちゃんは意識を取り戻すだろう。


「明らかに窮地なんですが、これ、どうしろと?」


 最強主人公ちゃんが上から退いた分マシになったとはいえ、俺のピンチは現在進行形で継続中である。


「魔法で乾燥……だが、温風で起きてしまう可能性が」


 良い打開策も思いつかない。何とかしようとアイデアを出せばその欠点に気づき。


「どうすれば……」


 俺は追い詰められつつあったのだった。




 

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