第120話「窮地、脱出したいです」*

「……そうですね」


 もっともらしいことを言えたからか、納得してくれた様子の最強主人公ちゃんを見て、俺は顔には出さず心の中で安堵する。


「解かってくれたか」


 同時に感じる達成感は無事最強主人公ちゃんの誤解を解くことができたこと、そして作者の思惑を打ち破り窮地を脱すことができたからだろう。やり切った、そして乗り切った。


「そう言う訳なのでな、希望には沿えんが俺の担当科目であれば些少だが教えることもできるが、どうする?」


 誤解して的外れなお願いをしてしまった最強主人公ちゃんだが、学習意欲のある生徒にはできる限り報いてこそ教官だろう。また変な方向に曲がっていかない様にと言う意味合いも込めて俺は最強主人公ちゃんに提案の形で問いを投げかけ。

「え? あ、ふぁい、よろしくおねがいしまつ」

「ああ。任された」


 想定外だったのか、一瞬呆けつつもすぐに首を縦に振った最強主人公ちゃんに応じると、少し考えてから再び口を開く。


「とりあえず浴室に移動しよう」


 と。


「よ、浴室?!」

「ああ。授業の始まる前だからな、今は。なら最初に教えるのは基礎だが――」


 火の魔法なら火傷や火事、氷なら凍傷など属性によっては基礎中の基礎でも事故が起きる可能性がある。教える相手が才能の塊である最強主人公ちゃんなのだ。


「暴走や暴発した時危険が少ないと思われるのは水だが、それでも周囲が水浸しになる可能性は否めない」

「あぁ! それで濡れても良いように浴室なんですね」

「そう言うことだ。では早速――」


 移動しようと続けようとして、ふと気づく。俺は最強主人公ちゃんが入浴中だったと思ったが、ここは学生の寮。個室それぞれに備え付けの浴室があるなんて豪華な造りはしていない。なら、最強主人公ちゃんの着衣はどうして乱れていたのか。


「教官?」

「あ、ああ、何でもない。この時間なら利用者もいないだろうし、清掃の時間とも被らんはずだ。とりあえず共用の浴場に向かうぞ?」


 深く聞いたら何か拙い気がして、訝し気な最強主人公ちゃんの声で我に返った俺は誤魔化すように告げて踵を返した。共同の浴場は寮の建物内ではあるが、入り口は独立していていったん外に出て向かう必要がある。


「以前はこうでもなかったのだがな」


 内部から向かえた構造を利用し、覗きをやらかそうとした不届き者が出たため工事を行って出入り口を別に設けたらしい。そうなってくると今度は外部の覗き犯が出そうな気もするが、そこは学校側もちゃんと考え、トラップ関係の教官が直々に罠を仕掛けたところ何人かの不届き者を捉え、見せしめにしたところでぱったりと覗き行為に及ぼうとする者は出なくなったそうだ。


「まぁ、今の俺にはありがたい、か」


 下着泥棒を捕まえたばかりで今度は覗きを捕まえるなんて展開は望んでいない。この作品が成人向けではない様だし、これ以上そっち方面の展開に繋がるとは思えないが、それはそれ。


「うん?」


 俺が寄せいただいたコメントが一件増えているのに気づいたのは、この直後。


『大丈夫、R-18でなくとも表現を濁してしまえば何とでもなりますよ!』


「ちょっ」


 そう上ずった声が漏れなかった自分をほめてもいいと思う。だが、同時にかなり不安になってきたのだった。


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