第119話「人は過ちを繰り返す」


「おま、お待たせ、しました」


 とぎれとぎれの言葉と耳の端まだ赤い顔、空いたドアの隙間から覗く身体を包む衣服はかなり乱れていた。


「すまなかったな、入浴中だったか」

「い、いえ、お構いなく」


 これでは前世でまったく空気を読まなかった宅配便の人と変わらないが、最強主人公ちゃんが応じて現れてしまった以上、出来るのは謝罪ぐらいであった。索敵用脳内地図でおおよその位置は把握できても相手が何をしてるかまではわからない。


「ふっ」


 結局のところ、魔法の便利さに胡坐をかいて俺も慢心していたということだろう。この失敗は次に生かさなければならない。人は過ちを繰り返すとどこかで聞いたような気がするが、過ちなど繰り返してよいモノではない。


「教官?」

「ん? ああ、そうだった。今回足を運んだ理由だが――」


 最強主人公ちゃんの訝しげな声で我に返った俺は切り出す。


「教えてくれと言うことだったのでな、都合の良い時間帯などを聞きに来た」

「え」


 最強主人公ちゃんが驚きの声を発すが、構わない。ここは勢いを止めてはだめだ。言うべきことを一気に言い切って誤解を解く。


「授業開始にはまだ早いが、いろいろ巻き込んでしまったし手伝いもしてもらったからな。一学生を特別扱いはよろしくないモノだが、今回は特例で問題無かろう、ただし……俺が教えているのは、魔法関連のみ、他に関しては教えるほどの知識があるとは思えん」


 言えた。何とか言いきれた。性教育は専門外と最強主人公ちゃんもきっとこれで解ってくれるはず。


「か、かまいませにゅ」

「へ」


 だが予想外の答えに自分でも間抜けと思える声が漏れ。


「ぼ、ボクはそれでも教官に教えて欲しいんです! その、魔法関連じゃなきゃいけないなら……そ、そう、魔法性教育とか!」

「ちょ」


 まほうせいきょういく って、なんですか。と言うか、解らない、何が最強主人公ちゃんをそこまで駆り立てるのか。


「いや、『魔法』がつけば問題ないとかそういうことではなくてだな?!」


 そも、魔法性教育教官とか居たら居たで全力で関わり合いになりたくないこと請け合いである。この世界は成人向けではないとコメントいただいて安堵したが、その教官は確実にあちら側の存在だろう。


「どうして」


 どうしてこうなった。誤解は解けたと思ったのに。やはり作者化、作者の仕業なのか。もしこれが作者の目論見通りだとしたなら、怨嗟の言葉を口にしつつも俺はその悪辣さに舌を巻いたことだろう。だが今は作者を罵っている場合ではない、何とか現状を打破しなくては。


「そ、そもそもだ。俺の専門ではなく、そちらに強引に寄せようとした別のナニカを学ぼうとしても、意味はほとんどあるまい? それに、専門科目より他を教えてくれと言われると、特別魔法教官として俺の立つ瀬がないのだが?」


 土壇場にしては我ながらもっともらしいことが言えたと思う。今度こそ通じてくれと思いつつ俺は最強主人公ちゃんへと視線をやった。


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