第116話「追う」


「さて、追いつくだけなら造作もないな」


 こういう時、魔法による索敵用の脳内地図は本当に役に立つ。自身と相手の位置がわかるのだから、あとは移動速度を上げて最強主人公ちゃんの方に向かうだけでいい。


「問題は追いついてからだ」


 あの発言の後である。今追いついたら、性教育の個人授業をするために追いかけてきたみたいなさらなる誤解を招いてもおかしくない。


「いや、そもそも最強主人公ちゃんの誤解の方がすでに若干アレだしな」


 俺が性教育の本を所持していた理由として自身が納得できるモノを模索した結果があの誤解なのかもしれないとしても。


「そして、誤解を解くにしても『性教育兼任は勘違いだ』と直球を投げるのはよろしくない」


 それをやるには最強主人公ちゃんの去り際のセリフが拙すぎる。


「いかがわしい申し出とも取れそうな発言だったからな」


 最強主人公ちゃんがそこに気づいていなくて、俺が誤解を指定した時点で気づいたとしたら。


「失言は俺もするが、ああいうのは敢て触れないか気づかないふりをするというのが優しさだろう」


 故に、誤解を解くなら遠回しに当人に察してもらうのがベストと今の俺は考える。


「そうだな、まずは誤解に乗っかって俺が本来受け持つ教科のことをさわりだけでも話して、『俺は他の科目は担当していないしな』とまるで独り言のように付け加える」


 聞こえてさえいれば、これで最強主人公ちゃんも俺が性教育担当の教官でないと気づける筈だ。あとは最強主人公ちゃんが自分が誤解していたことに気づくのを見ないふりをしつつ会話をつづけ、後は学校が始まってからなとでも言って別れればいい。


「まぁ、『ああすればいい』『こうすればいい』と言うだけならば簡単なんだがな」


 実践することの何と難しいことか。想定外の事態に振り回されてきたからこそ、思う。


「さてと」


 考えている間も距離は縮まっていた。


「なるほど、寮に戻るつもりのようだな」


 見え始めた最強主人公ちゃんの背中、更にその向こうには学生用の寮が見えており、俺は歩く速度を意図的に緩めた。


「立ち話は誰かに聞かれる恐れがある」


 最強主人公ちゃんには寮にたどり着いてもらって、そこを尋ねた方が安全だろう。


「誤解を解けば憂いも消えるしな。もっとも、誤解にかまけて他の事を忘れても拙いが」


 副教官へのお詫びの品を買ってくることなら、まだ覚えている。他の教え子への入居準備の礼は、誤解を解いた後引き返してからして回ればいいとして。


「まずは最強主人公ちゃんだな」


 俺が尋ねたら、さっそく来てくれたんですねと嬉々として性教育の本を持ってくるなんてことでもなければまぁ無難に誤解を解くところまでは持って行けるはずだ。


「もっとも油断は禁物だがな」


 作者の卑劣な罠にここまで何度となく煮え湯を飲まされているのだ。気の緩みは命取りだろう。


「行くか」

 心に鎧を着せると、俺は呟いた。












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