第115話「転生者であるがゆえに」


 こんな時、転生者であって良かったと思う。ただの創作の中の人物と違って俺は知っている、創作とはいえ似た展開を。


「お約束」


 そんな言葉でひとくくりにされるぐらいありがちな展開なのだ。流石に驚いて現実逃避っぽいことはしてしまったが、前世の記憶を参考に知れば、最強主人公ちゃんの行動は予測できる。


「突然、衝撃の事実を耳にしてしまい、しかも話した相手に自分が聞いていたことを知られた場合」


 該当人物の行動は、おおよそ3パターンだ。受け入れられずに現実逃避して立ち尽くす、発言者に真意を問いただす、その場から逃げ出す。すぐ問いただしてくるなら、口に出していなかった補足の部分までつけて説明して誤解を解いてやればいいし、残りのどちらかならどう対処するか考える時間が稼げる。慌てることはないのだ。


「そんな風に思っていたんだがな……」


 俺の目はどこかここではない遠くを見ていた。


「え、あ、あぅ……」


 俺に気づきまごついて意味の不明な動作をいくつかした最強主人公ちゃんは次の瞬間。


「せっ、性教育! ボクに性教育してくださいっ!」


 と叫ぶと、脱兎のごとく走り去っていったのだ。


「なんだったんだ、あれは」


 問おうにも、遠くを見ていた視線を戻したところで、最強主人公ちゃんどころか誰もいない玄関先があるだけだ。


「教官、今のは?」

「いや、解らん。そも……ああっ!」


 教え子の言葉に反射的に答え、直後に何故性教育と考えて、ようやく思い至る。


「最強主人公ちゃんは誤解をしている」


 コメントで教えて頂いたことだ。そしてその誤解は早く解消した方が良いモノであるらしい。そして俺は最強主人公ちゃんが落とした性教育の本を自分のモノだと言い張った。


「これらから推測するに、最強主人公ちゃんが抱いた誤解と言うのは、『俺が性教育も教えている』と言うものなのだろう」


 本を自分のモノと言い張ったのは、自身が使っている教科書と間違えているとすれば、説明がつく。


「教官?」

「いや、あの新入生は色々誤解をしているようなのでな。とりあえず、追いかけて誤解を解いてこなければならん」

「それは、うん、そうですよね」


 どうやら教え子にも納得してもらえたらしい。


「では、俺はこれで失礼する」

「はい、教官。誤解が解けることをお祈りしてますね」


 最後に教え子と挨拶し、ドアをくぐり。


「しかし、特別魔法教官と言う役職を知っているなら担当科目もわかりそうなモノなのだがな。まぁ、学校によっては複数教科を兼任で教えている教官が居ても不思議はないが」


 ともあれ、誤解の内容が把握できたことは収穫だろう。なるほど、真正面から当たってみるべきと言うのは本当だったなとも思う。


「ただ、気がかりなのは――」


 何故性教育なのか。俺が以前危惧した様にこの世界は成人向けの話の世界だというのか。


「何か確かめる方法はがあればいいのだが」


 呟きつつ俺は宿舎を後にした。


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