第114話「正面から向き合って」
「教官、わざわざそんなことで尋ねていらっしゃらなくても」
訪問した教え子はそう言ったが、助かったのは紛れもない事実だ。
「まぁ、既にこの街を離れた者も居るそちらにはまた後日と言うことになるがな」
一人目を訪問しておいてそういうことなら残りの教え子は省略でいいかなんてことにはならない。
「教官はそういうところ几帳面ですよね」
「そうか? 俺としてはおおざっぱだったりいい加減なところもそれなりにあると思っているが」
現状は最強主人公ちゃんを見習い、方針転換したからこそのモノで行き当たりばったり感は拭えない。
「さて、本当に礼の言葉だけになってしまったが、俺はそろそろ失礼させてもらおう」
身から出た錆とは言え、他の教え子の元を訪問する必要もあるし、長居して最強主人公ちゃんがこの宿舎を来客中みたいだし後にしようとスルーしてすれ違う恐れも大いにある。
「そうですか、大したお構いも出来ず申し訳ありませんでした、教官」
俺が暇を告げれば、そう返してから教え子は俺を見送るべく立ち上がり。
「ところであの可愛い後輩と教官はどういうご関係なんですか?」
俺の背中に爆弾を投げつけてきやがったのだった。
「どういう、とは?」
こういう時、すっとぼけるのが正しいのだろう。
「聞きたいことがあるなら、直接――」
だが俺は、最強主人公ちゃんのその言葉を思い出してしまう。知っていてという訳ではないのだろう、だが、最強主人公ちゃんの先輩である目の前の教え子も改心した最強主人公ちゃんと同じだ。聞きたいことを直接尋ねてきた相手に、とぼけた答えを返すのが躊躇われて。
「そうだな……気になる相手ではある」
魔法適性をはかる宝玉があれだけの反応を見せた期待の新入生なのだ。今後の成長を考えれば、特別魔法教官としてどれだけ伸びるかが気になることに嘘はなく。また、踏み台転生者としても自分の運命を大きく左右する相手なのだ。気にならない筈がない。
「教官、それって――」
「ん? ああ、もち」
尋ねられて声には出さず省略した部分に気づいた俺は、勿論と前置きしてから、前者、つまりいかに成長するかが気になるという表向きの方の補足を口にするつもりでドアノブを捻り。
「っ」
ただ立ち尽くす最強主人公ちゃんと出くわした。
「こ」
これは、あれだろうか。さっきの会話をばっちり聞かれていたという、前世の漫画とかでよく見かけたシチュエーション。悪意すら感じるほどのタイミングの悪さ。普通の偶然で、こんなことは起きない。
「おのれぇぇ作者めぇぇぇぇっ!」
人目がなければ、そう喚き散らしていたであろう。悪質にもほどがあるし、この世界が創作モノだというのなら、この辺りで〆にして次回に続けるはずだ。俺が書き手ならそうする。半ば現実逃避しつつ、俺の冷静な部分がそんなくだらないことを考えていた。
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