第110話「尾行」


「最強主人公ちゃんは『性教育の本を落としちゃった事件』によって俺の教え子でありかつこの士官学校を出たOBである先輩たちからあらぬ誤解を受けたのではないかと気になり、確認すべく来客用の宿舎に向かっていた」


 これが、最強主人公ちゃんの行動に対する俺の推測だ。これが正しいなら最強主人公ちゃんは来客用の宿舎に近づいて聞き耳を立てようとするだろう。


「当然人かないことを確認した上で行うだろうが、人気のない場所に女の子が一人だけ、と言うことになる」


 未だ確認できてないこの世界が18歳未満お断り系のお話だった場合、よからぬことになったって不思議はない。


「逆説的にそういう事態になるかを確認することで判別するという方法もあるが……」


 なんだか俺が破廉恥な事態を期待しているようにも見えるので、ちょっと気に入らない。


「とは言え、放置して取り返しのつかない事態になったら目も当てられんしな」


 尾行は続けるつもりだ。尚、この人大丈夫ってくらいに独り言をつぶやいているが、これはコメントが寄せられたことがあるからこそいると信じている読者の方に向けての弁解である。


「できれば何事もなく終わって欲しいところだが」


 それはそれとして、このまましゃべり続けてはいくら透明になっていても最強主人公ちゃんに気取られる。俺は口を閉じると無言で最強主人公ちゃんへとさらに近寄り。


「どうしよう……塀と建物の間かな? 床下は暗いし、虫とかいるかもしれないし……」


 最強主人公ちゃんの独言に、とりあえず宿舎に近づこうとしているところまでは間違いないと確信する。同時に周辺を探ってみるが脳内索敵地図には宿舎を利用している者と最強主人公ちゃんの反応ぐらいしかない。


「俺の思い過ごしだったのか」


 声には出さず、そう呟きたくなるぐらいに何もない。しかし、立ち去るわけにもいかず、俺は距離をさらに詰める。独り言が聞こえるということは、勘違いのヒントが何かの拍子に最強主人公ちゃんの口から洩れることだってありうるかもしれないのだ。


「ええと、まだ魔法の効果もそんなに現れてないし、大丈夫だよね」


 魔法、と思わず口から声が漏れてしまうところだった。俺は未だ最強主人公ちゃんに魔法なんて教えていない。強いて言うならましゅ・がいあーの時に盗まれたような気もするが、それがどう今の状況に関係するのか、わからない。とはいえ――。


「何が大丈夫なんだ?」


 なんて尋ねるわけにもいかなかった。透明になってる以上、俺はここに存在しないモノなのだ。


「うん、誰も見てないし、そーっと、そーっと」


 独り言を口にしつつ最強主人公ちゃんは宿舎の壁と塀の間へ身をもぐりこませ始め。この時点で、魔法がどう関係するのかは不明だが、大丈夫が何にかかっているかは理解した。そうか、壁と塀に挟まらないかを気にしていたのかと。


「ん?」


 そこまで考えて、ふと思う。そう言えば女性が挟まれて身動きが取れなくなるというシチュエーション、どこかで聞いたことがあるような気がするな、と。








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