第109話「最強主人公を探して」


「さてと」


 人探しとなると、例の索敵魔法はかなりありがたい魔法だと思う。たとえ何者かが存在するという反応でしかなく、表示された印に名前などの個人情報が表示されていなかったとしても。


「距離と方向を考えればまず間違いはないだろうしな」


 もともと人目につかないように最強主人公ちゃんが動いていたこともあり、俺が推定最強主人公ちゃんと見た印の周辺に他の印はない。ならば、後は魔法で透明になって近づき、最強主人公ちゃんと確定したなら、後をつけて観察するだけだ。そういう訳で、さっそく魔法を使って身体を不可視にする。


「直接聞いた方が話は早いかもしれんがな」


 用事があったんじゃないかと間接的に立ち去らせておいた俺がわざわざ追いかけて来てというのは不自然すぎる。


「結局のところ姿を消してストーキングするしかないという訳か」


 人が見たらなんと言うやら。透明になっていれば見られないのではと神の様な視点で俺の心まで覗ける人物がいたなら首をかしげるかもしれないが、俺は知っているのだ。自分が創作物の登場人物であるということを。つまり、俺の行動はいわゆる読者と言われる方々には筒抜けの筈だ。


「いや、まぁそれでも見られているということは状況も理解はされている筈」


 なら、決して厭らしい理由での行動でないということは理解されているだろうし、そもそも。


「十八歳未満は見ちゃいけませんジャンルの登場人物と比べればマシか……ん?」


 そこまで考えてから、ふと気が付く。この世界が成人向けでないという保証がどこにも存在しないことに。


「俺はありがちな設定だし、ごく普通な全年齢向け作品だと思っていたが……俺の勝手な思い込みだったというのか?」


 そういえば、思い当たる点はある。おっぱいお化けは、引くレベルで胸が大きいし、唐突なラッキースケベにも俺は遭遇している。


「そういえば最強主人公ちゃんも女の子だな」


 やばい、十八歳未満は見ちゃいけませんジャンルだとすれば説明のつく事象が次々と浮かんでくる。


「今まで何事もなかった気がするのは、『作品が始まっていなかったから』とか『始まったばかりだったから』だったりするのか?」


 決めつけるのは早計かもしれないが、俺には直接この世界のジャンルを知る術はない。


「いかん、透明になって後をついてゆく現状にすら作者の目論見通りである気がしてきた」


 新着コメントがないか脳内で確認するが、とりあえずそれらしきモノは確認できず。


「結局、やれることはあとをつけるだけか」


 若干モヤモヤを抱えつつ、推定最強主人公ちゃんへ近づけば、俺は別れたばかりの最強主人公ちゃんの姿を確認する。


「ふぅ、とりあえず本人であることは間違いなさそうだが……」


 疑惑が出て来たせいで微妙にやりづらさを感じつつ、更に距離を詰めるのだった。

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