第108話「いいえ」
可能なら、光の速さで否定したかった。
「いいえ」
本来なら「いいや」とか「違う」とか答えそうなモノだが、普段使わない否定の言葉が口をついて出たのがなぜなのかは俺にもわからない。
「あら、わたくしの勘が外れましたわね」
とかおっぱいお化けはのたまわっていたが、最強主人公ちゃんと踏み台転生者がくっつくとかありえないだろうに。
「だいたい――」
俺のかわりに厄介ごとを背負い込むことになるであろう最強主人公ちゃんと何かの間違いで一緒になったとしたら、隣に最強主人公ちゃんがいるだけで、現状の困ったときの俺頼みが俺が現役を引退するまで続くことになるだろう。
「俺の目指す道とは違う」
栄光と世間の注目は最強主人公ちゃんが持って行き、俺は最強主人公ちゃんに負けて逃げるように去った先で名を変え、慎ましく穏やかに暮らすのだ。
「現状は厄介ごとのせいで実力を抑えてなんていられないが、隠遁生活ならそんな力もいらないだろうしな」
実力を隠してのんびり過ごすのだ。休みの日に凶悪な魔物が出たから退治しに行ってくれと呼び出されるようなことはない、平凡でありふれた一般市民としての日常を。その為にも元竜には誤解を生まぬよう、即座に否定した。
「そもそも俺が番を作ってしまったら万が一お前の番候補をできなかった時、約束を反故にすることになるだろう。そんな不義理が出来るか」
人型になったとはいえ元は大国を単独で滅ぼせる竜なのだ。約束が違うと暴れられたらどれだけの被害が出ることか。もちろん、俺自身口に出したように不義理はしたくないという部分もある。
「思ったより律儀ですのね」
「俺は教官、ここに学びに来た者達を教え導く立場だ。手本とならねばならん身でで軽々しく約束を違えられるか」
変態に変装して正体を隠しいろいろやったりもしたが、あれは事情があってだ。本来は品行方正が俺である。
「そういう意味で盗人を捕縛したのも当然のことで周りに触れ回るようなことではない。ついでに言うなら、近くで窃盗被害が出たと知れば、必要もないのに不安になる者も出てくる。犯人は捕まっているのだ。お前も余計なことを言って誰かを不安にさせてくれるな」
これ以上下着泥棒の件が広がらない様俺はおっぱいお化けにくぎを刺し。
「ではな」
今度こそその場を後にする。最強主人公ちゃんを見つけて、している誤解とやらがどのようなモノなのか、探らねばならないのだ。
「とんだ回り道になってしまった」
またましゅ・がいあーに扮するかどうか、歩きながらふと考えたが、ここにきてまた着替えるのは手間だし、変身してまた先ほどの様に何か見つけたら笑えない。
「二度あることは三度あるというしな」
その場合主に作者の仕業である気がするが。
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