第107話「帰りたい、でも帰れない」
「帰りたい、でも帰れない」
心の安寧を保つ意味では、ここから先の会話は聞きたくない。だが、おっぱいお化けが何かやらかすのではないかと思うと気が気で無いし、やらかした時のフォローは残っていなければ出来ない。
「頼むから無難に終わってくれよ」
と声には出さず呟くが、願いがかなうかは不明であり。手のひらに嫌な汗がにじむ。
「昨日は助かりましたわ。感謝して差し上げてよ」
「あ、はい、どういたしまして?」
本当に感謝してるのか疑問な言いっぷりに困惑しつつも最強主人公ちゃんは答え。
「ふむ」
様子を見守ったまま、俺は考える。このまま成り行きを見守るか。それともこの会話に介入してゆくか。話の内容が昨日の手伝いのままなら、最強主人公ちゃんの心の傷に触れるかもしれないし、それは避けたいが、ここで出ていっておっぱいお化けから下着泥棒を捕まえたことを話題にされるのも避けたい。
「最強主人公ちゃんは性教育の本の件からまだ立ち直っていないかもしれないんだぞ」
なんて言えるはずもないが、加えて何やら誤解しているかもしれないらしいとなると、まるで何も知らず罠の設置されたエリアを歩く人を眺めているかの様にハラハラする。
「けれど、ここは騒々しいところですわね。に、士官学校と言うところはみんなこうですの?」
「え?」
たぶんおっぱいお化けにとっての比較対象は獣の頃に住んでいた山とかなのだろうが、さっそくやらかしかけたぞこの元竜。今のは人間って言いかけて言い直したと俺は見た。
「場所と季節、時間によりけりだ。長期休暇は学生も職員も帰郷したりして人が少ない。まだ授業が始まっていない今は人も少なくそう騒ぎなど起きない筈なんだが……雨が降る日もあれば晴れる日もあるだろう?」
その程度の偶然でありたまたまだと俺は元竜に言う。何と言うか、限界だった。このおっぱいお化け、黙って見ていたら失言をやらかしかねない。
「え、ええと」
「気にしなくていい。こちらの話だ。それよりも、お前はなぜここにいる?」
だからこそ、誤解について聞きだす機会ではあったかもしれないが、この場を立ち去ってくれるように俺は最強主人公ちゃんに話を振り。
「えっ、その、ボク」
じっと見つめれば、最強主人公ちゃんは顔を赤くし、目に見えてあたふたし出す。これはあと一押しだろう。
「言いかえよう、ここに居て良いのか? 何か用事だったんじゃないのか?」
「え、あ……そ、そうでした。ボク……ええと、失礼しましたっ!」
立ち去りやすい様に質問を変えれば、理解したのかはっと顔を上げ、落し物でも探すかのような勢いで頭を下げた最強主人公ちゃんはくるっと俺達に背を向けると、脱兎の勢いで駆けて行った。
「ふぅ」
これで何とかしのぎ切った、俺としてはそう思ったが。
「なるほど、あれがあなたの番候補という訳ですのね」
最強主人公ちゃんが声の聞こえないくらい遠くなった途端、おっぱいお化けが得意げな顔で確認してきたのだった。
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