第106話「着替えを終えて」


「正直下着泥棒ごときにかかずらう時間も惜しいしな」


 着替え終えて、屋根から降りると下着泥棒は即行で引き渡してきた。


「学園モノとかでときどきスケベキャラとか登場するが、やってる行動って見つかったら普通は停学とか退学処分になるよな、常識的に考えて」


 この独り言でお察しだが、犯人はこの士官学校の在校生だった。まぁ、部外者が侵入して容易に下着泥棒出来てしまったら、警備の兵を職務怠慢で叱らなくてはならない訳で。


「とは言え、犯行に気付かなかったわけだしな」


 突き出しに行くと兵は恐縮していた。


「しかし、その下着泥棒に魔法を教えていたと思うと、な」


 こう、ひたすらにモヤモヤする。


「もとよりそのつもりはなかったが、透明化の魔法はやはり誰にでも教えられんな」


 あの手の輩が会得してしまえば、何人の女性が被害に遭うことか。


「むしろセキュリティ方面で有効な防犯用の魔法でも考案すべきか」


 一歩間違うと昨日の自分が引っかかっていた可能性もあるわけだが、それはそれ。


「おーっほっほっほっほっほ」

「しかし、何故だろうな。どこかで聞いた高笑いが近づいてくるのは」


 気のせいだと思いたいが、遠目にも純粋な男子学生には目の毒にしかならない程胸を揺らして近づいてくるおっぱいお化けがいつの間にか視界の中に居て。


「聞きましたわ、泥棒と言うのを捕まえてくださったそうですわね?」

「あ、ああ。聞きました? あ」


 頷いてから引っかかり、少し考えて気づく。泥棒が入ったなら被害者のところに連絡が行くのは、当然。そして俺は素の自分に戻ってから、何も隠さず下着泥棒は突き出してきた。


「特別魔法教官があなたのところで盗みを働こうとした下着泥棒を捕まえました」


 そう兵がこのおっぱいお化けに伝えていたっておかしくはない。口止めをした覚えもないのだ。


「どうなさって?」

「いや、なんでもない。思い返すと当然の事だったなと再認識しただけだ」


 時間を無駄にしたくないあまり、少々モノを考えなさすぎた。


「あ」

「ん?」


 しかし、このタイミングで振り返ったら最強主人公ちゃんが立っていたとかいう展開があった場合、脳内でおのれ作者めと罵っても仕方ないことだと思う。


「ふむ、妙なところで会うな」


 なるべく平静を装って、声を出す。顔は全力でポーカーフェイスだ。


「大丈夫、おっぱいお化けは変なことは口走らない」


 声には出さず、自分に言い聞かせる。根拠はないが。どうってことはないはずだが、おっぱいお化けの発言や行動いかんで無難に立ち回る難易度が天井知らずで跳ね上がるのが今の状況だ。


「じゃあな」


 とでも言って立ち去ってしまえばいいかと言うと、その後残った二人が何か話すのではないかと思ってしまうととてもではないが、この場を逃げ出すことも出来ず。


「おーっほっほっほっほっほ、あなたは昨日の――」


 おっぱいお化けも当然の様に最強主人公ちゃんに気づくのを俺はただ見ているしかなかったのだった。









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