第103話「勝手知ったる我が職場」


「さて、と」


 この士官学校に来て一年や二年ではないのだ。校舎や寮の構造、周辺の地理は把握していた。


「教え子達でまだこの学校に残っている者が居るとしたら、来客用の宿舎の方か」


 最優先で向かうのはまずそこだろう。最強主人公ちゃんの元へ続けて向かうとしても説得力が出てくる。


「ドロシーへの埋め合わせも忘れてはいかんな」


 首尾よく最強主人公ちゃんの誤解内容を知り、解くことができたならその足で街に向かってお詫びの品を買って来よう。


「もっとも、そうそううまく行くとは思えんが」


 作者のことだ俺を躓かせるべく見えない小さな罠を散りばめていたって驚かない。


「小さな罠、脈絡もなくあのおっぱいお化けが現れる、とかか」


 食事については朝食分は用意してあるはずなので食べるモノがないとこっちを尋ねてくることはない。


「現在地が寮や宿舎の立ち並ぶ一角だからな」


 まぁ、俺も寮から出てきたのだから当然と言えば当然なのだが。だからこそ目的地までも近くて。


「……もくてきち まで あと わずか という ところ で なぜ さいきょうしゅじんこうちゃん を みかける ので しょうね?」


 どことなく棒読みで口に出してみるが、理由など解りきっている。昨日の本落としちゃった事件のことだろう。俺が落としたと言い張りはしたものの、目撃者は多数。


「あれで関係が終わりなら気まずいし、出来るだけ会わないようにしようで済むが、国境へ共に向かった間柄と言うだけではなく、OBと新入生の関係だからな」


 顔を合わせる機会が皆無と言い切れない以上、あの事件をどう思っているかが気がかりとかそんなところだろう。


「最強主人公ちゃんの誤解が気になっている俺とある意味似た様なものか」


 弟子が師に似るということはあるだろうが、俺が最強主人公ちゃんに指導したことなどほとんどない。本と下着の件と言い、そこまで似なくてもいいだろうにと思うが。


「これはチャンスかもしれんな」


 周囲に人はいない。もちろん、最強主人公ちゃんが教え子たちの反応を探る為こそこそしているところなのだから、誰かいたらおかしいものの、人がいないということは、ましゅ・がいあーとして接触するにはうってつけだ。


「さて、ならば変身せねば――」


 俺は周囲を見回し、脱衣できそうな死角を探す。


「屋根……身体を低くしていれば、行けるか」


 目を付けたのは学生用の寮の屋根だ。規模が一番大きいだけあって他より二階分高く、屋上への出入りは原則禁止となっている。


「よし」


 魔法で姿を透明化し、浮かび上がれば屋根まではさして時間もかからない。俺は屋根に降り立つと周囲を確認してから透明化を解いた。覆面にする袋が透明のままでは手探りで用意しなければならなくなるからだ。


「それさえなければ透明のまま着替えでもいいのだがな」


 うっかり着替えを見られるアクシデントと言うのはある種のお約束でもある。着替えているのが俺では需要もない気がするが。


「はぁ、馬鹿なことを考えてないで、脱ぐか」


 歎息すると俺は衣服に手をかけた。


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