第102話「そして翌日」
「さすがに夜中に忍び込むわけにもいかないしな」
誰に向けてか、俺は言い訳口にしながら朝食のサラダをフォークでつついていた。昨晩の残り物を魔法で冷却保存していただけのモノなのでフォークはあまり進まないが、朝食に時間をかけるわけにはいかない。
「情報収集して一刻も早く『最強主人公ちゃんが何を誤解しているのか』を探り当てねばな」
俺も先ほどの様に朝、自分しかいないところで独り言を漏らすこともあるのだ。最強主人公ちゃんにだって同じようなことがあるかもしれない。
「もっともわざわざ盗み聞きに行くぐらいなら、魔法で盗聴器を再現とかした方が安全かつ話も早い気がするが、プライバシーとか倫理的な面で問題がな……」
可能不可能で聞かれればおそらく盗聴器の再現は出来るであろうし、効率だけを考えるなら盗聴魔法一択だが、他者をないがしろにするようなことは出来ようはずもない、相手が犯罪者とかなら別だが。
「こう、最強主人公ちゃんの知り合いで俺とも親しい相手がいれば、『最強主人公ちゃんが何か勘違いをしていると聞いた。誤解を解くため、何を誤解してるのか探りをお願いしたい』とか言えるの……に?」
そこまで口にしてから、ふと思う。そういえば共通の知り合いがいたではないかと。
「ましゅ・がいあー」
そうだ、あの変態の恰好で直接尋ねればいいじゃないか。
「問題は校内であんな恰好をしていたら、即逮捕だな」
警備員が出てきて追いかけまわされることは請け合いだ。
「透明化でやり過ごすにしてもな」
こういう時に頼りになるのは索敵用の脳内マップ、だったらいいのだが、あれはこちらに敵意を持ってるか、敵対するかが大きいので、本来の俺に敵意を持っていない警備員が敵として表示されるかに疑問が残る。
「難しい問題だが、どうにかするしかないか」
わざわざ知らせて頂いた最強主人公ちゃんの誤解。夜寝つきが遅くなるぐらいには現時点でも気になっている。
「『気づいたら手遅れでした』では悔やんでも悔やみきれないからな」
出来るだけの事はしたい。
「となると、直接盗み聴きに出向くついでに警備の確認や行動パターンの把握か」
出来れば俺が最強主人公ちゃんのところに行く名目も用意いておきたいものだが。
「ものごとに絶対はあり得ない」
俺とてポカミスで見つかってしまうことは充分考えられる。備えておくこと、保険を用意することは何も間違ってはいない。
「昨日の礼だと他の教え子たちのところも回らねばならんが、無難ではあるか」
回らなければならないとは言っても、普段の滞在先がこの学校の寮に固定されることになるであろう最強主人公ちゃんと違い、教え子たちの滞在先はバラバラなのだ。近い最強主人公ちゃんだけいち早く訪問したとかそんな言い訳にすればいいし、とりあえず候補は決まった。次は根回しか。
「難しいことではないな。『礼をしに伺う』と前もって伝えてゆくだけでいい」
無難上等。変に奇をてらったりするよりは良かろう。
「思い立ったが吉日」
俺は朝食を食べ終えると、出かける準備を始めたのだった。
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