番外「あの人と本(最強主人公?視点)」
「すまんな、俺が落とした」
その人はみんなの前で言い切ると、驚くボクを含む人たちを置き去りにして、ボクの落とした本を拾った。
「性教育の本」
入り口近くに置いてあった本を運ぼうとして、手に取ってしまった本。
「大丈夫? 手伝おうか?」
直後にそう声をかけられ、反射的にしまってしまった本だ。それをよりによって他の人がたくさん見ている前で落としてしまった。
「特別魔法教官」
恥ずかしくて顔も上げられず、身の置き場の無くなったボクをあの人は庇ってくれた。
「教官、その本が落ちた時、ずいぶん離れて――」
「魔法だ。俺なら魔法で可能だ。だから、俺が落とした」
明らかにボクが落としたところはみんなが見ていたのに、特別魔法教官は譲らず、周囲に居た人たちが教官の教え子だったからか、落とした本のことはもう誰の口からも出ることはなく。
「はぁ……」
引越しのお手伝いも終わって、気がつけばボクは自分の部屋に戻ってきていた。試験に合格し、入学の決まった新入生に割り振られた学生寮の一室。遠方から入学したとか家庭や金銭的事情とかが理由で入学まで暮らす場所がない新入生の為に救済措置としてこの士官学校では前倒しで入居を許可しているんだって丁寧に説明してもらったのは、ついこの間の事。
「確か……」
部屋にある机に近寄ると、屈んで押し込んであった箱を引っ張り出す。試験勉強のために持ってきた本の写しがそこにはあって。紙の束をかき分けて奥の方へ手を伸ばす。
「あった」
あの時落とした本程詳しくはない。そもそもボク自身が手書きで写したから挿絵もすごく残念な出来だけど、引っ張り出した紙には裸の男の人と女の人の絵が描かれていた。
「『発育』だっけ」
女の人の胸が大きくなるのは。
「引っ越してくるお姉さん、凄く胸が大きかった」
ひょっとして特別魔法教官はああいう人が好きなんじゃないだろうか。教官の教え子の人たちにお手伝いの合間に雑談で聞いたところ、あの人が異性との関係で浮ついた話をされたことはほとんどなかったって聞いた。そんな教官が連れてきたのがあの物凄く胸のおっきなお姉さんなのだ。
「魔法による肉体の強化。もし、これを使って胸が大きく成長するってところが強化出来たら――」
魔法の作用は成長の強化だけど、実際成長した部分は魔法とは関係ない。魔法の効果が切れてもそのままの筈だ。
「ううん、それだけじゃない。訓練で筋肉がついたり、背が伸びるとか別の事にも応用が出来たら」
それは凄いことなんじゃないだろうか。普通に訓練するより何倍も早く筋肉がつき、体力がつく。
「胸が大きくなったとして支える筋肉が無かったら大変なことになりそうだもんね。この魔法を完成させて、あのお姉さんより大きな胸を手に入れられたらボクは――わぁっ」
何気なく手元を見て、裸の男の人の絵に目が留まり、手にしていた紙を放り出す。
「うう」
胸がドキドキする。顔が熱い。
「スーザン教官」
服の端をぎゅっと握ってボクは熱っぽい息を吐いた。
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