第96話「石橋を叩いて渡る気分」


「ほっ」


 最初に漏れたのは安堵の息だった。直前の悪意あるアクシデントを鑑みると、透明になっていたおっぱいお化けに俺がぶつかって転倒。はずみで透明化が解けておっぱいおばけの豊かな胸を鷲掴みにして押し倒してるところをドロシーに見られるくらいの追い打ちを狙っていたっておかしくないのだから。


「さてと、外で待つように言ったはずなんだが……」


 独り言を口にしつつ、ドアを開けっぱなしにして外に出る。もちろん元竜たちが後に続いて出てこられるようにだ。出てきた二人に部屋の中からの死角に移動してもらってから透明化を解けば、とりあえず想定の流れには戻すことができる。


「よし」


 一度だけ振り返り、副教官が俺たちに続いて部屋の外には出てきていないこと、廊下に通行人が居ないことを確認してから俺はおっぱいお化けたちの透明化を解いた。


「部屋に戻ってドロシーにお前達を紹介する。説明はこちらでするからお前達は挨拶だけしてくれればいい」

「承知いたしましてよ」

「頼んだぞ」


 人の格好をしていようと二人はまだこの姿になったばかりの元獣なのだ。人間の常識はある程度教えはしたが、やはり不安も大きい。


「すまん、待たせた」


 軽く頭を下げ、部屋に戻り。これに二人が続く。


「いえ。そちらがお話にあっ」


 ドロシーの視線は俺の脇を抜け、一点に留まったように思えた。


「まぁ、無理もないか」


 同性だろうと、あの常識外れした大きさを見てしまったのなら。


「ああ、話にあった人物だ。少々訳があってこの士官学校の職員寮で暮らすことになる。故にこれからは顔を合わせることもあるだろう」

「よろしくお願いしましてよ」

「ちてよ」


 俺がドロシーに説明しつつ合図を送れば、すぐに反応して二人は軽く頭を下げた。


「さて、出来ればこのままじっくりと話をと言いたいところだがこの二人を寮の方に連れていってここで暮らす手配と準備を……俺はその手伝いせねばならん」


 案内と引越しの手伝いぐらいなら別段俺が手伝わなければいけない理由はないが、相手が訳ありとなれば、事情も変わってくる。


「そうですか……」


 理解してくれたのか俺やおっぱいお化けたちを引き留めるそぶりも見せず、ドロシーは納得してくれて。


「今度こそ乗り切った」


 心の中で、密かにガッツポーズをとる。まだ学校は始まっていない、故に最強主人公ちゃんと出くわすこともない。最大の関門である副教官に元竜の二人を引き合わせる途中で不幸な事故は発生したが、これが最大の関門の筈なのだ。


「っ」


 油断をするつもりはない、ないが達成感が身体を満たしてゆく。大丈夫だ、これなら、きっと。





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