第95話「ちくしょう、やりやがった!」*
「おのれぇ、作者めぇぇぇぇ!」
そう罵声を浴びせられたら、どれだけよかったことか。想定外の状況に予定が狂ったかと思った直後の、前触れもない唐突なラッキースケベ。
「ラッキー?」
否、アンラッキーであろう。謝りはしたが、許してもらえたとしても当面顔を合わせるのが気まずいことになると思われるのに、相手は特別魔法教官である俺を補佐してくれる副教官なのだ。これから毎日顔を合わせる間柄だし、始業式が終わり学校が始まればいろいろと手伝ってもらわなくてはならない相手でもある。
「あ」
だから俺は救いを求めてコメントが寄せられていないかを確認し、一件の新着に気づく。
『作者名といいスーさんといい、世界の悪意的に凄い見覚えのある気がしたけどきっと気のせいですよね』
ああ、これは明らかに作者向けのコメントである。もしこれに干渉する力が俺にあったらスーさんがかわいそうだから、状況を改善してあげてくださいとか書き加えるのだが。ともあれ、応援してくれる読者が増えるというのは、このコメント閲覧と言う特殊能力を持つ俺としても喜ばしいことだ。アドバイスをくれる人が増えるかもしれないのだから。
「ではなくて!」
のんびりそんなことを考えている場合じゃない。今は副教官、ドロシーの機嫌をとらねば。
「っ」
だが問題は、機嫌を取るとはどうすればいいかと言うことだ。お詫びのプレゼントを用意して後日渡すか、それとも何か褒めたりすべきか。尚、この手の事には疎い俺だが、流石に胸の感触を褒めるだとかが最大級の地雷にしかならないことぐらいは理解している。
「すまん。この埋め合わせは必ずどこかでする」
いつまでも沈黙していては状況が悪化するとも思い絞り出せた言葉が、それ。言ってみてから本当にこれで良かったのだろうかとも少し思ったが、口から出てしまった言葉を回収する魔法は持ちあわせていない。
「では、二人を連れてくるな」
口にしてしまった以上、お詫びの品を買ってくるくらいはせねばならないが、ならばなおの事、目的は果たしてしまう必要があった。まごついて世界の悪意と言う名の作者のしもべがまたよからぬことを企むことだって充分にありうる。
「今はこれ以上状況を悪化させずに切り抜けることを優先すべきだ」
足元を一瞥する。つんのめりそうな高低差や障害物は、ほぼない。気になるのはドアくらいか。開けたドアを誰かにぶつけてしまうとか、ノブに手をかけたドアを反対側から同時に押すか引くかされるとか。アニメなどでときどき見かけるアクシデントだが、現状だとまったく同じモノが自分の身に降りかかってきても驚けない。
「一気に開けず、ゆっくりと。最初は少しだけ」
細心の注意を払って、俺は手をかけたドアノブを捻ったのだった。
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