第94話「久しぶりに見る人に」
「特別魔法教官、おかえりなさい」
出迎えた副教官のドロシーに俺はただいまと告げ、微かに視線を後ろへ向けた。
「どうされました?」
「いや、何でもない」
いきなりおっぱいお化けと対面させるのは悪手と思い、元竜二人には魔法による透明化を施しているのだ。故にドロシーには二人の姿はまだ見えて居ない。
「さてと、何から話したものか」
まずはおっぱいお化けたちのことを口頭で伝え、部屋の外に待たせていることにして俺だけ外に出るふりをして元竜たちと外に出て透明化を解き、ドロシーとおっぱいお化けたちを会せる。面倒な手順を踏むが、おっぱいお化けを普通に部屋の外に立たせていた場合、第三者に見られる恐れがあったのだ。
「事前説明してワンクッションおけば、ドロシーも心の準備ができるはず」
同時に要らぬ誤解も招かないだろうと踏んだ。もちろん、まだ油断はできないが。
「まずは留守を守ってくれて礼を言う。変わりはなかったか?」
俺は至極常識的に留守中のことを尋ね。
「特にこれと言っては。ただ……」
「ただ?」
言葉を濁す姿に訝しむ。
「特別魔法教官が街ですごく大きな胸の方を連れていたと」
「あ」
そういえば もくげき された ばしょ も あったんでしたね。
「……そうか」
俺の立てた計画はいきなり、崩れ去った。
「なら、話は早いな。その胸の大きな人物がこの士官学校の職員寮で暮らすこととなることが決まった。色々込み合った事情があって、どこまで話すかもまだ迷っているところがあるのだが、とりあえず面識を作っておこうと部屋の前まで連れてきている」
だが、出来るだけ平静を装って俺は軌道を修正した。説明する前におっぱいお化けの事を知られていたのは想定外だが、あの元竜と俺との間に面識があることを知られるのは覚悟の上だったのだ。
「大丈夫、何も問題はない」
声には出さず自分に言い聞かせ、副教官の前でくるりとドアの方へ向き直る。
「っ」
筈が、椅子の足に躓いた。動揺して注意が疎かになっていたのか。
「くっ」
だが、無様に転ぶ気はなかった。俺はわざと身体を重心をずらし、バランスを取ろうとし。
「な」
むにゅんとやわらかな感触を指先に感じ、声を漏らす。
「今、のは……」
何であるかなど、確認するまでもない。問題は誰に触ったかだが、誰であろうと厄介なことになるのは明らかで。
「すまん」
相手を確認するより早く、俺は謝った。
「あ」
遅れて透明になってるおっぱいお化けが相手だったとしたら、ここで謝るのは拙いと気づくも、もう遅い。
「っ、きゃああああっ」
幸いにも被害者は元竜ではなかった。いや、それを幸いと言うのは問題か。遅れて状況を理解した副教官の悲鳴が部屋の中に響き渡った。
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