第93話「ただいま」
「ふぅ」
そうこうあって俺達はようやく士官学校へと戻ってきた。女装用の衣服は王城で用意してもらったが、用意された服も一つ条件を果たしたなら、お役御免になる。
「殿下がアレのお眼鏡にかなうまで強くなる、か」
男と同棲させては番候補が出てきづらくなるからと言うのがおっぱいお化けとの生活で俺が女装する理由の半分だったわけだが、現状ではまだ候補段階であるものの、今は殿下が居る。殿下を元竜が認めるまで強くすれば、おっぱいお化けの方は片が付く。
「残るのは幼女の方だが」
おっぱいお化けの肉親なので一緒に暮らしているということにすれば不自然さはなく、俺が一緒に暮らさないといけない理由も消失する。
「逆に言うなら、殿下を番にしてもいいとアレが言いだすまでは我慢しなければならないということでもあるからな」
一日も早くおっぱいお化けにOKを貰う為、イスト殿下は俺達に数日遅れで士官学校へとやってくることになっている。俺に修行をつけられ魔法を教わる為に。
「どの魔法を伝授するかの選定もしなければならんが、新入生の方もおろそかに出来ん」
王都での殿下との会話、無駄に政治色を帯びたモノになった気がするが、あれも下手をしたらフラグだったかもしれないのだから。
「ただでさえ工作員の潜入なんて物騒な事実が明らかになっているしな」
ここの所なかった人と人との戦争が起こったとしても不思議はない。
「新入生たちにとって入学して間もないタイミングで戦争が起こり、学生達までが戦争に駆り出される」
創作モノでならそれなりにあるパターンだ。ライトノベルの主人公はだいたい若い読者の年齢層に合せてる気がするし、その辺りの年代の若者が戦地に赴くには何かもっともらしい理由が必要なモノだが、学生ではあるものの、士官を養成する学校で学んだ戦闘力を有する者達なのだ。人材が不足すれば駆り出されても説得力は十二分にある。
「ひょっとしたら竜の件で最強主人公ちゃんを覚醒させるつもりが、俺が解決してしまったせいで、作者が新たな機会として戦争を起こそうとしてるとしても――」
不思議はない。
「念の為に教える魔法も実戦向きに調整した方が良いかもしれんな、今年は」
備えあれば憂いなしとも言う。まだ始業式も数日先で人気のない廊下を独り言を口にしつつ歩く先は俺にあてがわれた部屋。副教官がおそらくは待っていると思う。
「さて、問題はあのおっぱいお化けの事をどう説明するかだな」
ここで誤解させるようなことは、避けたい。
「作者が悪意を向けるとすれば」
この後の展開はまさにうってつけだ。妙な誤解をされてみっともなくあたふたする俺。その滑稽さを読者の方々に見せつける気だろう。
「それぐらいは俺にだって解る」
故に、術中にハマる気など欠片もなかった。
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