第92話「忘れていた事実」
「そうだった……」
元竜は身体から切り離した一部分も人に変えていたのだ。
「ひょっとして、番は二人必要と言うことか?」
「元は一つのもの、同じ雄が番でもかまわなくてよ」
おっぱいお化けが返した答えにああよかったと胸をなでおろしてよいものか。俺は、確かに幼女の方の事を忘れていた。それに、元竜は一人同じ相手で良いとは言ったが番になった男は二人に振り回されることになりかねない。
「しかしな」
もう一人番となる男を用意するとなると、そいつはどこから連れてくるんだと言うことになる。大きさから言っても本体であるおっぱいお化けほどの力はないだろうが、元は同じもの。下手な相手を選べないという点では大きい方と何ら変わりはないのだ。
「一つ聞くが、この小さい方は成長してお前と同じ姿、力にはなったりするのか?」
ないとは思うが、これは確認しておかねばならない。
「力の方は分けたときの比率を考えるとありえなくてよ、ただ」
「ただ?」
「姿に関しては元が同じですもの、お察しですわ」
やはり、と言うべきか。
「むぅ」
成長すると連れて歩くだけでも無駄に注目を集めた大きい方と同じ姿になると言われて俺は唸った。
「もう一つ聞いておくが、こっちの小さい方がお前と同じ姿になるのには何年かかる?」
成長したらしたでめんどくさいことになりそうだが、成長する前は前で幼女なのだ。番の男性はまずロリコン疑惑と戦わなくてはならないだろうが、これで大きくなるのには百年かかるとか言われてしまえば疑惑が疑惑でなくなってしまう。
「推測ですけれど、発育の速さは人間と同程度でしてよ」
「なるほど、大人になるには十年以上かかると見て良い訳か」
俺は密かに安堵した。人間と同じ成長速度であるなら肉体の未熟を理由に番を用意する時間を先延ばしに出来る。これがもっと短い期間であったなら、士官学校で暮らすことになった現状では急成長をごまかす理由も必要になったかもしれないのだから。
「ならば、小さい方の番については今すぐどうこうする必要はないとして――」
「では先生、僕はここまでのことを陛下に報告してきます。先生が求められていた服については容易出来次第こちらに運ぶよう指示してありますから」
「殿下、申し訳ありません」
気を使ってもらったことに対して謝罪すると、いえと軽く頭を振ってから殿下は部屋を退出された。
「収穫もあったが、見落としていた点にも気づかされた」
何はともあれ、このおっぱいお化けにクラスチェンジする前の竜についての件はこれでひと段落したとみて良いだろう。
「ようやく平穏な学園生活が戻って来るな」
教官サイドではあるし、いろんな意味で厄介な同居人も増えたが。
「……平穏?」
「どういたしまして?」
「いや、なんでもない」
訝しむ元竜に頭を振って見せたものの、自分で言った平穏と言う単語を思わず疑ってしまった俺だった。
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