第91話「殿下の行動」

「父上……陛下にお伝えしなければいけないことが増えましたが、その前に――」


 殿下は真剣な顔を作ると、おっぱいお化けの元に向かい、片膝をつく。


「貴女もまだ人の姿をとって間もないと聞いています。故に人間の決まりなど把握はされていないかもしれませんから」


 前置きして、説明を交えながら殿下は元竜へと伝える。今からかける問いは番になってくれと望むようなモノであると。


「受け入れていただける余地がなければ、話にすらなりません。よろしければ、答えをお聞かせください」


 なるほど、と言われてみればもっともだった。おっぱいお化けはこの件に関してまだ何の反応も示していない。だが、絶対いやと拒絶でもされれば先ほどのやり取りは全てパアなのだ。


「補足しておく。殿下のお力は俺が魔法を教えたものの中でも上位に位置する」


 この元竜であれば判定基準は力だろうと見た俺はここぞとばかりに援護射撃を始める。このおっぱいお化けの番に押し込まれるのを回避する絶好の機会なのだ。自分の嫌な相手を教え子に押し付けるという意味合いでは割と外道の所業ではあるが、政治的な問題から当人が納得しているのだから、そこは大目に見てほしい。


「残念ですけれど、この場でお受けすることは致しかねますわ」


 だが、俺の内心になど関係なく、おっぱいお化けは殿下の求婚を跳ね除けた。


「子を為すなら、もっとも強き雄と。そう考えたなら――」

「なるほど、先生より弱い僕は不適格ということですか」

「だが」


 元竜の言い分も解る。俺は俺よりふさわしい相手を紹介すると言ったのだ、俺より弱い相手では話にならないというおっぱいお化けの意見は正論だろう、だが殿下にはまだ未来がある。伸びしろがあるのだ。俺は擁護の言葉を続けようとし。


「待って下さる? わたくしの言葉はまだ終わりではなくてよ」


 元竜がそれを遮った。


「仰りたいことはおおよそ理解していますわ。そちらの方はまだ若い。ここから伸びると言われたいのでしょう?」

「あ、ああ。そうだ」

「ですから、先ほどは『この場では』としましてよ」


 言うべきことを言い当てられて頷くしかない俺におっぱいお化けが言葉を返し。


「あ」


 俺は声を漏らした。そうか、そういうことか。


「『この場では』と言うことは、殿下が俺の実力を超えれば」

「そう、その時は喜んでお受けしてよ」

「やはり、か」


 つまりこれからの殿下の実力次第と言うことなのだ。


「先生を超える、ですか」


 物差しにされた自分としては若干複雑であると当時に高いハードルだなとも思う。


「不可能ではありません。殿下の潜在能力でしたら」


 俺が全ての魔法を教えたわけではないというのにかなりの実力を持っておられるのだ。秘匿している魔法うち戦闘向けの幾つかを教えた上、全力で育成したなら戦闘能力で俺を上回ることは充分可能だ。


「ただ、そちらの方にはもう一つ選択肢がありましてよ」

「え?」


 これからどんな育成メニューを行おうかと早くも考え始めた俺は思いもよらぬ言葉で現実に引き戻され。


「でちてよ」

「あ」


 おっぱいお化けに続いたソレの存在で元竜の言う選択肢を察した。


「そういえば、ようじょ も いた の でしたね」


 つまり、この幼女の番になるという選択肢だろう。








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