第89話「いくつかの仮定」
「なるほど」
突然の番立候補で呆然としてしまった俺だが、理由を聞けば腑に落ち、頷いていた。ようは俺がノワン公爵のバカ息子に抱いた懸念と根っこは同じである。
「大国を滅ぼせるような力を持つ存在を個人所有できてしまうのは拙い」
あのバカは論外だが、まともな男が元竜の番となったとしても当人以外が何かしでかそうとすることもありうる。たとえば番になった男の親族が元竜の威を借りて自分の思うがままにことを運ばせようと誰かを強要したり、金銭などを奪おうと恐喝に及ぶなど。
「僕でしたらその手の輩は調べるまでもありませんから」
殿下は次期国王陛下だ。故にその威を借りようだとか、すり寄って甘い汁を吸おうと思うような輩も存在はするものの、既にマーク済みとのこと。
「期を見てそちらを処断すれば、僕が彼女の番に選ばれたからと言う理由ですり寄ってくる輩はほとんど居ない筈です。よほど愚かな者か命知らずでもなければ」
「現状マークしている連中は見せしめであり、何らかの怪しい挙動をしそうな輩への太い釘という訳ですか」
「ええ。本当は僕が王位を継ぐ際の大掃除のために準備されていたものなんですが、状況が状況ですし。竜を配偶者に選んだと公表すれば周辺国との力関係がめちゃくちゃにはなりますが、少なくとも現状のゲドスの様にちょっかいをかけてくるような国は減ると思います」
いつまでも隠し通せるモノではありませんしとしつつも殿下はちらりと窓の外へ視線をやる。陽光の差し込む中庭は俺たちが降り立ったのとは別の中庭だが素人目に見ても見事な庭園だった。池にたたえられた水がキラキラと陽光に輝き、木陰を作り出す見事な枝ぶりの木々が通り抜ける風にゆすられたかのように揺れる。
「ただ、竜の力を脅威に感じた国々が連合を組んで我が国を包囲するという事態も一応考えられない訳ではないんですけどね」
「ああ、それは」
「主張しそうなのは軍事大国とこの国と戦火を交えた経験のある国。ただ、その中には現状でこの国の友好国になっている国がいくつかありますし、この国には先生と先生が作り出した魔法があります」
「っ」
ここにきて俺の存在が出てくるのか。まぁ、いろいろやらかした記憶はあるのだが。
「僕の贔屓目もあるでしょうけど、先生一人で大国ひとつ分の戦力に匹敵すると僕は見ています。そこに彼女が加われば、二国分。さらに国自体の戦力と僕を含めた先生の教え子たち……相手が連合を組んで攻めてくるとして、どれだけの被害をその連合は被るでしょうね?」
「なるほど、連合を組んできても烏合の主。大きな被害を受ければ、櫛の歯が抜けていくように瓦解すると」
「誰だって己の身が可愛いはずですから。ただし、この連合国と戦争になる可能性は極めて低いと僕は思ってます。大国を滅ぼせる存在と真正面から当たりたい国があるとは思えません」
「確かに」
そんなことをするぐらいなら、チマチマ嫌がらせをするだろう。交易品に関税をかけるだとか特定のモノを売らないだとか。
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