第88話「『ですよねー』と言うべきか」
「こんな危険物置いていかないでくださいよ。必要な女物の服はこっちで用意しますから」
元竜をお城に預けて女装用の衣装を手に入れようと考えた俺に対してのお城側からの答えがそれである。言われてみればもっともだ。
「そんなことにも気づかなかったとは、な」
苦笑と共に記憶は少し前へと遡る。城の中にある中庭の一つに降り立った俺は、第一王子であるイスト殿下の元へと向かった。竜に関する陛下の命を持ってこられたのが、殿下なのだ。ならば、俺が窓口にするのもイスト殿下であり。
「この二人を人目にさらしたくない為に真っ直ぐここへ来たが、まだやることを残しているので城下町に戻る」
そう説明して城下町に行こうとした俺は、あっさり引き止められた。
「今思い返すと、何故それで送り出してもらえると思ったんだろうな」
殿下がやってくるのを通された部屋で待ちながら、俺は天井を仰いだ。ぶら下がるシャンデリアは高級感が溢れていて、さすが王城だと思わず感嘆の声が漏れそうになる。同時にこう高価なものに囲まれてると落ち着かないだろうなと思うのは、俺が前世から引っ張ってきた価値観が主な要因だろう。
「それはそれとして――」
脳内に展開した索敵用の魔法による地図があるからこそ、わかる。待ち人がどうやら到着したということが。
「先生、お待たせしました」
やはりと言うべきか、あの時と変わらずこの第一王子は俺へと頭を下げる。待たせる側と待つ方が逆になった形だが、おそらくここで頭を下げるのはこちらの方だとやれば、ほぼあの時のやり取りの繰り返しとなる事だろう。
「いえ。それで、伝令も先に届いているでしょうし俺がここに来たということで用件はおおよそ察していただけると思いますが」
「竜の一件、ですね」
イスト殿下の言葉に頷くと、俺はまず連れていた二人を示す。
「この二人のこともここに置いてゆくなと言われてしまいましたので、ご存知かと思いますが」
「ええ。先生のお話でなければ到底信じられなかったでしょうが」
「と言うことは、二人が元竜とご存知の上でここにいらっしゃったと?」
危険物を持ち込んだ張本人であるいささか不用心ではと言うような権利は俺にはない。だが、感情は理解と別物でもある。
「問題ないと判断されたからこうしてお連れになっているのでしょう? 僕は先生を信じておりますから」
「そうですか」
嫌な汗で背中がじっとり湿るが、敢て平静を装い、俺は相槌を打つ。
「では、詳細な報告をさせていただきます」
竜がこの国に侵入するかもしれないという理由で俺は駆り出されたのだ。竜が誕生する仕組みと、隣国の特産品である香草が魔物の人への憎しみを除去する可能性があることは伝えるべきであり、この竜が番を探しているという件についてもサポートをお願いするなら、伝えておくべきだろう。俺はそう判断して、報告を始めたのだが。
「あの、その番と言うのは……僕ではダメでしょうか?」
説明が中盤に差し掛かったところで、何やら考え込んでいた殿下はおっぱいお化けに向き直って問うたのだった。
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