第87話「まあいいと割り切って」*

「まあいい」


 本当にいいかはさておき、うじうじ悩んだり気にしていては話が進まないことを俺は学習していた。


「懸念事項の一つが確認できた」


 結果は無残なモノだったとしても、作者の意図は読めたのだ。きっとあのバカ息子は懲りもせずこのおっぱいお化けに言い寄るために再登場するのだろう。


『サカウラミ、キター。しかも、ドジっ子属性かしら』


 確認すれば増えていた二つ目のコメントから、とりあえずあのバカの敵意の種類は判明したし、この一つ前のコメントもやはりあの公爵嫡男登場への歓声の様なモノだった。


『立ち上がれ! 雑草のように!』


 加えて三つ目で声援が送られているところも確認したのだ。まず間違いなく何らかの形で再登場を果たすだろう。


「しかし、今期の入学は叶わない筈だが……」


 親の権力でゴリ押しでもする気なのか、それとも。


「頭の端には入れておかんといかんのだろうな」

 

 この事を忘れて足を掬われたら目も当てられない。


「さて、待たせた。ここにいる理由も消失した。王都に向かうぞ」


 つかまれと足場付きのロープを差し出し、おっぱいお化けと幼女の双方が掴まるのを目視で確認してから俺は二人ともども自分を不可視化させると、空へゆっくりと浮かび上がる。


「館の本館があちら、なら王都は向こうだな」


 眼下に立つノワン公爵の館から次の目的地のある方角へと顔を向けると飛ばすぞと同行者に一度だけ警告する。


「っ」


 周囲の景色が吹き飛んだのは、この直後。恐ろしい速さで後方へと流れ、はるか前方にあった山が森がどんどん近づいて、後方に消えた。


「人はかつて大空を自由に飛びたいと望んだと聞くが――」


 こうして飛んでいるとどこまでも飛んで行けそうな万能感というか、無限の可能性と何かに行く手を遮られることのない爽快感は確かに感じる。


「同時に嫌なことを全て投げ捨てて飛んでいけたらとも思ってしまうがな」


 魔法で飛翔できるようになった弊害だろうか。


「そういう訳にもいかん以上、やはり――」


 最強主人公ちゃんの成長を待たねばならないのだろう。そして、踏み台となって国の便利屋さんと言う立ち位置から自由になるのだ。


「それまでに――」


 このおっぱいお化けの番も用意せねばなと声を出さずに俺は続ける。こう、上手く踏み台にはなれましたが番を用意できず元竜がついてきましたと言う嫌な未来のヴィジョンが一瞬見えた気がしたのだ。


「すべては報告して戻ったら、だな」


 士官学校での授業の開始も、おっぱいお化けへの生にもとい番候補の選定と育成も。


「っ、その前に王都で女モノの衣服を手に入れるのを忘れんようにせねばな」


 危なかった。ノワン公爵のバカ息子の一件で記憶から飛びかけていたが、女装して対外的に元竜たちと過ごす為の衣装の確保だけは王都でしなければならないのだった。


「あれか」


 ポツリと呟き、前方へ巨大な人工物が現れたのは更にしばらく飛んだ後の事。


「話は通っている筈だしな。先に王城に向かうか」


 また先ほどの様なハプニングがあっても拙い。俺は降りることなく城下町の上をそのまま飛び続けたのだった。


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