第86話「落ち着け、冷静に何とかするんだ!」


「俺が『なるだけ一緒に居られるのを避けたくなるような容姿』にあの元竜がなるところまでが作者の仕込みだったとは……」


 その結果、俺はまんまとあのおっぱいお化けの元を離れ、聞き込みに気を取られている間に何がどうしてそうなったかは不明だが、公爵家のバカ息子が元竜と接触してしまった。しかも、見る限りあのおっぱいお化けを口説いている様にも見える。


「確かにあのおっぱいお化けに俺以外の相手が見つかればいいとは思っていた」


 だが、あのバカ息子は論外だ。今はただ胸が以上にでかいだけの女に見えても、あれは竜だったモノなのだ。何かの間違いで元竜があのバカ息子を気に入ってしまった場合、大国を単体で滅ぼせる存在をあのバカが手に入れたということになる。


「ついでに言うなら、あの元竜の目的は子を為すことでもある」


 つまり、人間との間に子供を作ることが出来るわけで。


「頭脳はバカ、身体能力は竜並みなんてことになったら救いようがないぞ」


 近隣国を含む脅威兼災厄になりかねない。


「それともこの出会いをきっかけにあのバカ息子が更生するという筋書きなのか?」


 だとしても最初の出会いを鑑みるに、期待するのはほぼ至難の業だし、個人的には面倒なことになる前に始末してしまいたいレベルなのだが。


「さすがに公爵嫡男を暗殺はな」


 尻尾を掴ませるようなヘマをする気はないが、俺はつい先ほどこの下で教え子と会っている。つまり、現場近くにいたことを教え子とはいえ他者に知られてしまっている訳である。


「この状況で手を出すのは拙すぎる」


 出来てあのバカ息子を気絶させるなり眠らせるなりして、元竜たちとこの場を離れることぐらいだ。


「手を出しづらい状況も作者の計算のうちか」


 思わず唸るが唸ったところでどうにもならない。この場での処分が不可能である以上、何とかおっぱいお化けたちを回収して去ることぐらいだ。透明化したうえで接近、あのバカの意識を何とか刈ってから姿を現して、事情説明ってところだろうか。


「透明なままではあいつらがこっちを認識できないしな」


 未知の敵と勘違いされて屋根の上で戦いが始まるケースは避けたい。


「さて」


 意識を刈る方法に関しては、魔法により幻の刺激臭とかを嗅がせて気絶させるとかで良かろう。


「殴打は当たり所が悪いとな」


 作者はその衝撃でまともになるなんて一昔以上前の漫画にありがちな展開を想定しているかもしれないが、後遺症でも残ったらことだ。


「おれの気持ちは変わらない。お゛」

「ふっ」


 言葉の途中で人様にはとても見せられないような顔になってぶっ倒れたバカ一名を確認した俺は、口元を微かに綻ばせつつ姿を現した。


「無事か?」


 一応気遣う形で尋ねるが、返ってきたのは当然でしてよと言う得意げな笑みのみ。


「ですけれど、めんどくさい人間でしたし、感謝はしてますわよ」


 そう、笑みだけで良かったのに、なぜここでデレるというのか。


「俺は対応を誤った……のか?」


  先ほど綻ばせた口元を今度は引きつらせて空を仰いだ。






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