第85話「教え子に聞く」
「教官、何故ここに?」
教え子にそう言わせるまでには対して時間はかからなかった。迫る地面に音を立てず着地すると建物を回り込み、窓のカギを魔法で開けて侵入しただけでほぼ事足りたのだ。
「何か忘れている気がしてな。心当たりをしらみつぶしにしていた」
頂いたコメントからおたくの雇い主のバカ息子の様子が気になったなんて馬鹿正直に打ち明けられるはずもない。単に気になることの一つに過ぎないと言った態で、俺は問題の人物について聞き。
「……と言うことは、教官にケンカを売ったって噂は本当だったんですね」
「真面に取り合う価値もない相手だったからな、こちらとしては追い返して何もしてこない様ならそれで終わりのつもりだったが、事実は事実か。もっともそれでお前達が辞めれば、親の方も俺に恨みを抱きかねん」
これは他言無用だがと前置きした上で国内に火種がくすぶっているかも知れなくてなと俺は教え子に話す。
「火種に燃えやすいモノを用意してやる理由もない。俺としては現状事を荒立てたくもないからな」
短慮は起こさないようにと釘を刺してから、でバカ息子の様子はと話を促し。
「不満は隠さないものの謹慎を申し付けられ部屋に押し込められてそのまま、か」
とりあえず改心したとか言われたところで脳内地図の反応を見た俺は信じなかっただろうが、部屋に押し込められたままだとするなら、何らかの変化があるとは考えにくい。潜入した工作員が接触したとか何か起きていると思ったが、俺の思い違いだったということか。
「不安要素が消えたなら何よりだ」
若干腑に落ちなくもあるが、今はここを切り上げてあのおっぱいお化けの元に戻るのが第一だろう。
「ではな。他にも気がかりなことがあるので俺は行く」
「はぁ。教官の事ですから大丈夫だとは思いますが……お気を付けて」
どことなく困惑気味なのは突然やってきて聞くことだけ聞いて帰ろうとしているからか。まぁ、お騒がせしたのは事実だが、目をつむってもらおう。作者が変な気を起こしていればロクでもないことが起きたかもしれないのだから。
「さて」
窓から外に出ると降りてきた場所まで回り込み、念の為に姿を消して浮き上がる。視線の高さが上昇し、やがて正面に見えるモノが建物の壁から屋根へと変わり。
「は?」
次の瞬間目に飛び込んできたモノの為に俺の口から声が漏れた。
「生憎とあなたには興味がなくてよ」
おっぱいお化けは、いい。居て当然だ。だが。
「そうかもしれない。今のおれはお前に助けられただけだ。だが――」
同じ屋根の上で件のバカ息子がおっぱいお化けに何やら熱心に話しかけている様子は想定外である。
「と言うか、脳内地図で位置は把あ……あ゛」
脳内の地図に意識を傾けると、敵意の反応はいつの間にか元竜のいる屋根の上へと移動していたのだ。
「しまった、教え子との会話に気がそれていた間に」
現状を見ると、それ以外考えられないだろう。
「くっ、作者め、これが狙いか」
俺はまんまと術中に嵌まってしまっていたのだった。
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