第79話「魔法の言葉」
「少々込み入った事情があってな。説明するにも上からの許可が必要になる」
誤魔化すことも出来ただろうが、明らかに後で首を絞めそうな気がしたので、俺は敢て誤魔化さず、話せない理由があることは正直に明かす形で予防線を張った。
「それでも聞きたいというのであれば、特例として話すことも出来るかもしれんが、この場合『こちらの都合』で『あることに協力してもらう』ことになるが――」
この場合の協力とは、すなわち元竜の番候補になってもらうぞと言うことである。
「それよりもまず、俺は報告に行かねばならん。伝令に言伝を頼みはしたが、流石にアレで終わらせるわけにもいかんからな」
言葉の中には時々便利なモノがある。たった一言で尽く他者を退けさせたり思うように動かすことが出来るモノ。国王陛下を頂点にするこの国ならば、陛下からの命令、すなわち勅令がこれにあたるだろうか。この言葉でどうにかできないのは、命を出した当人である国王陛下だけだろう。つまるところ権力は強いということであり。
「上司に報告しないといけないからまた後でね」
と言う意味合いの言ならば、教え子たちとの会話はまず間違いなく後回しに出来る。
「では、悪いが俺は行くぞ」
「「あ、はい」」
報告しなければと言う魔法の言葉のおかげもあってか、教え子たちはすんなり引き下がり、俺は馬車の横を通り抜け、士官学校へと向かう。
「悪いな」
校長への報告が終わったら、次は王都に向かって陛下への報告と言うことになるだろう。教え子たちとの再会はそのあとだ。
「言葉と言うのは難しい」
たとえば意図的に言わなかったことがあるだけで、容易に他者を誤解させてしまうのだから。
「故にここからも、な」
俺が士官学校から教え子を伴って出かけ留守にする。竜の件は知れば混乱を起こすだけだから他の教官や職員、生徒には伏せられているだろうが、それでも流石に校長は俺が国境へ向かった理由を知っている。
「だから、な」
後ろを歩くおっぱいお化けを前に突き出してこれが問題の竜でしたなんて言えば、卒倒しかねない。説明するならクッションをいくつか挟むのは必須だ。
「その上で受け入れてくれるかだが……」
これについては校長が難色を示した場合、王都の方へ問題をそのまま持ってゆくしかない。
「いや、その前に」
ましゅ・がいあーと一緒にいるはずの竜がなぜここにいるかと言う説明が必要になるか。
「まぁ、そっちについてはもう考えがあるが」
幼女と本体が別れたように脅威度を下げるため複数に分け力を分散させたその二体がこれだと説明すればいい。まるっと一体分よりも受け入れやすくなるだろうし、幼女の方も力を分ける実験の結果生じた個体だとか説明して置けば辻褄だって合う。
「となると、やはり気になるのは校長の反応か……ん?」
考えつつ歩いてきたからか、気がつけば俺は士官学校の校門前へと立っていた。
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