第78話「帰還」
「はぁ」
待ち望んでいた筈の帰還。後始末と誰かの番を調達することこそ残っているものの、順次片付けていけば、特別教官として士官学校でだが平穏な学園生活が戻ってくる筈だった。竜の変態でかかった時間分の遅れを取り戻すべく再び空を飛び、俺は士官学校のある街へとたどり着き、メインストリートを歩いている。距離的な意味での期間を果たしたならば、あとは。
「校長と一部の者には真相を話しておかねばならんだろうな」
国への報告も必要だ。ここまでは想定された後始末の一部ではあるが。
「おーっほっほっほっほっほ、視線を感じますわ。やはりわたくしの判断に間違いはありませんでしたわね」
後ろを歩くやたら上機嫌なおっぱいお化けの声を聞くだけで、俺の心は無意識に助けを求めてしまう。
「……いや」
すべては俺の見通しの甘さが招いたこと、とまでは言わないが、俺に原因の一端があるのも事実で。隣の幼女と後ろの元竜、両者と一緒にいた俺は、こっちにも飛んでくる視線を感じながら、ただ歩いていた。
「しばらく面倒を見なければいけないとなれば、隠しおおせるのは不可能。遅かれ早かれこうなるのは目に見えていた」
とはいえ、俺はもう割と結構へこたれそうだった。
「奥さんと娘さんですか?」
そう問われたのが、きっかけだ。組み合わせ的に誤解される可能性なんて認識していなければならなかったのに、俺は完全に失念していて、尋ねられた時完全に凍りついた。もっとも、元竜がこの質問へ頓珍漢なことを口走つのではという懸念に気づいた俺は、即座に復活して否定したのだが。
「本当に危なかった」
番を用意する前にデマを広められたら、俺が社会的に終わる。
「誤解を広めないためにも、早く候補の選定を始めないとな」
入試から間もなく、今はまだ始業式が遠いが、新入生にも期待したいところだ。
「俺が諦めさえしなければ、可能性は残る。道は続いてゆく――」
諦めた時こそがきっと、終わりの時だろう、だから。
「ふっ」
なぜだろうか、誰かが立ち止まるなと背を押してくれたような気がして、口の端が綻ぶ。
「あら?」
その直後だった、唐突に前方で馬車が制止したのは。
「何」
訝しむ声が最後まで口から出るよりも早く、幌の中から人影が現れ。
「っ」
一瞬襲撃を警戒してしまったのは、何故だろうか。
「「教かぁぁぁん!」」
飛び出してきたのは、共に国境へと向かう筈だった教え子たちだ。
「何て声を出している」
「ですが、ご無事とは信じていましたが……」
「よかった、無事でよかった」
帰還を無事の帰還を喜んでくれるのはうれしくもあり、恥ずかしくもあり、ただ。ただ、ひたすらに願う。後ろのおっぱいお化けと横の幼女には気づいてくれるなと。
「報告もあるしな。お前たちは――」
「ところで教官、そちらの女の子は……」
だが、願いは儚く空しく散るのだった。
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