第77話「甘く見ていた(閲覧注意)」
「首尾よく服は調達出来た。そして――」
アリバイ工作の意味合いでその後近くの村を何か所かまわって居もしない幼女の両親を知らないかと聞き込みをし、最後の村で民家の部屋を借りて一泊し、購入した古着に身を包んだ幼女を一瞥した俺は、視線を前方に戻す。
「朝だ」
白んでいた昨日訪れた隣国側の空は徐々に赤く染まり、微かに顔を出した朝日の光が大地を木々を俺を右側から赤く塗り替えてゆく。
「もっと日が昇りきるまで寝ていても構わなかったのだがな」
だからこそ俺は幼女を起こす気なんてさらさらなかった。俺自身もう少し寝ているつもりだったぐらいだ。にもかかわらずこうして起きて屋外にいる理由は、幼女が俺を起こし、本体の変態が終わったことを告げたことにある。
「わたくちなら、だいじょーぶでちてよ。それよりも」
俺が本体と離れていることの方が問題だとでも言うかのように、幼女は俺を促す。
「むかえに、ゆくのでつわ」
と。
「さて」
ならば迎えに行こう。大人の女性の服まで譲ってくれとは言いづらく、用意できたのは三つ目の村で購入した布に穴をあけ後で腰部分をひもで縛ることで完成するお粗末な服ではあるが少なくとも裸の女性を連れまわすという社会的に抹殺されかねない事態だけはこれで防ぐことが出来るはずだ。
「まあ、原始的な分サイズ調整は容易だしな」
用意した服がきつくて着れないということはないと思う。
「しかし、やはり気になるな……」
幼女にすら俺の遺伝子を参考にしたことで髪の色へ影響が及んでいるのだ。
「俺を女体化させたモノなんてことはあり得ない筈」
元は一緒なのだから、隣の幼女をそのまま成長させれば理論上人型になった竜の姿になるはずであり。
「おーっほっほっほっほ、待っていましたわ」
実際、高笑いで俺を出迎えた竜の首から上は、まさに幼女を十年と少しそのまま成長させたようであった。
「どうちまちたの、スーザン」
俺が無言であることを訝しんだのであろう。幼女が問うが、俺は言葉を失っていた。首から上は想像通りだった。だが、まずその下。外見年齢相応に膨らんでいるのであれば、絶句には至らない。そんな生易しいモノじゃなかった。
「日常生活どうすんの?」
思わず問いただしてしまいたくなるほど異常に大きな胸が腕に圧迫されて変形し、ひたすら目のやり場に困る。
「布地、足りるのか……」
さすがにこれは想定外である。こう、何というか。
「コイツの常識の無さを甘く見ていた」
問いただしたところ、人型になるなら必要なのは子を産み育む能力と、番となる雄を摑まえる魅力であると元竜は判断したらしい。過剰を通り越した胸の大きさは子が母乳に困らないようにという動物的な判断に基づいてのものだったようであり。
「無理でしてよ」
胸をもう少し小さくできないかと尋ねて返ってきた答えがそれだった。肉体を変化させる力は完全に使い切ってしまったそうで、もう姿は変えられないと元竜は言う。
「つまり、コレを好いてくれる男を用意しろ、と言うことか」
人の趣向は千差万別。だが、ハードルは上がったと思う。
「おかしいな。帰れると喜んでいたはずなのだが」
何故俺は両手と膝を地面について項垂れているのだろうか。
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