第76話「姫の謎と」
「では、お互い情報を持ち帰り細部を詰めてからもう一度話し合うということで――」
姫君に警戒したこともあってか、言葉尻を取られない様、失言しない様細心の注意を払ったところ当たり障りのないやり取りをかわしただけで、会談は終わりを迎えた。同じことを本物の交渉役がやったらまず間違いなく首になるであろうぐらいに、何も決まらなかった。
「しかし……」
俺の気のせいだったのか、それとも先方に何か考えがあるのか、相手側も突っ込んで話をしてくるようなことはなかったように思える。ましゅ・がいあーだった時に見た積極性が嘘だったかのように。
「ふむ」
この態度の差はなんなのだろう。まさか、ましゅ・がいあ-へ本当に恋心を抱いたりしていて、弟子にと言うのはお近づきになるきっかけ作りだったとかなのだろうか。俺としては
「はっ?!」
もしや、作者の仕業か。正体を明かせない仮初の姿だけモテモテにして悔しがる俺を道化にすることで笑いを取ろうという魂胆なのでは。
「どうされました?」
「あ、いえ。何でもありません」
おのれ、作者め。姫君にまで訝しがられてしまったではないか。しかし、それが作者の方針だとすると、ましゅ・がいあーの時は異性にモテまくるようになるかもしれないということか。俺とて木石ではない。異性への興味は人並みに持ちあわせてはいる。だが、将来的に踏み台転生者する予定の俺としては、類が及びかねないことを鑑みると、最強主人公ちゃんの踏み台になるまでは恋人は作れないのだ。
「では、俺はこれで」
表面上取り繕い、俺は姫君に頭を下げて踵を返す。結局姫の態度の謎は残ったままだが、つついて墓穴を掘るよりよほど良い。
「終わりだ。ようやく終わりだ」
押さえつけていないと歓喜が滲み出して顔が緩んでしまいそうだ。まだ竜の本体を迎えに行ったりしなければならないし、姫君との会談の事もこの関所の最高責任者に話しておかなければならないだろうが、士官学校に戻れるのだ。
「日をまたいだりはしていないはずだが」
もう何週間もこの辺りで過ごしているかのような錯覚を覚えるのは、それだけ俺が疲弊したからなのだろう。
「ところで、お前は本体の変態が終わったのかを知ることは出来るのか?」
ただ、竜を迎えに行くタイミングもあったので、人気がないところまで来たところで幼女に尋ねると、返ってきたのは「きょりによりまちてよ」との答え。
「なるほど。それで、この距離の場合は?」
「かろうじてでつわね。まだでしてよ」
「そうか」
それだけわかれば十分だった。ならば、俺が次に向かうべきは、紹介された村だ。
「手に入れねばな」
幼女の服を。そして、竜本体の分の服も理由をつけて用意すべきだろう。流石に俺とて同じ轍を二度踏む愚を犯す気はなかった。
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