第75話「明日の両国の為に」

あの男ましゅ・がいあーから話は聞いています。どうやってとは言ってくださらぬように。俺も国に仕える者、たとえ高貴な身分であられようと異国の方には伝えられないこともありますので」


 出だしとしてはそんなところだろうか。ましゅ・がいあーとのやり取りを異国の王族に説明させるのも気が咎めたというのもあるが、時間節約のため、話はだいたい聞いていると前置きして俺は話を進める。


「とは言うものの、俺は文官ではありませんし、事実はつい先ほど判明したばかりと聞いています。よって俺に出来ることとなると、一時的な窓口のようなモノになると思います」


 ずぶの素人とまで言うと語弊があるが、餅は餅屋だ。伝令がなにがしらの指示を携えて戻ってくるにも相応に時間がかかるだろうし、本国の意向を無視してあれこれできるような権限まで俺は持ちあわせていない。無理やり拡大解釈すれば、隣国の竜が起こしたことに対して処置とか詭弁を弄せる可能性がちょこっと位は残ってるかもしれないが、それより何より、専門家に任せれば俺はお役御免、士官学校に戻れるのだ。


「貴国の特産品である香草の高騰と不足の予測は我が国にとっても他人事になるとは到底思えません。何らかの対策を立てておくべきというあの男ましゅ・がいあーの見立てに異を唱えるつもりはありませんし、むしろ一刻も早く手を打っておくべきでしょうが――」


 そこまで言ってから俺はちらりと出立の準備をする人々の方を一瞥してから、再び口を開く。


「おそらく今回できるのはお互いの言い分を持ち帰る事ぐらいでしょう」

「そう、ですね」


 この姫君に国王の名代としての権限でもあれば別だが、同意を返してくるところを見るにそういうことはないらしい。


「俺の名は、スーザン。国許では魔法作成者などと言う大そうな呼ばれ方をすることもありますが、一介の軍人です」

「その名は存じております。我が国の宮廷魔術師が時々あなたの事を口にしておりました。末席の者で、『可能であれば教えを乞いたい』と口にしていたこともあるほどです」

「そうですか……」


 姫君のリップサービスか、あるいは本当に俺の魔法に興味があるのかはわからないが、考えても詮無きことだ。俺の前世知識から再現した魔法かりものの中にはとても世には出せないモノもあるが、教え子たちには伝授しているモノであっても異国に伝わるとパワーバランスを崩しかねないものが結構ある。故に教え子たちが亡命を試みた場合、国境を超える前に始末される、教え子たちへと密かに仕込まれた魔法によって。俺の魔法の流出に国は神経をとがらせているのだ。その割には先日も秘匿魔法の書かれた書が行方不明になる事件が起きてはいるが、それは俺の魔法が他国にも魅力的に映ったという意味でもある。


「ん?」


 とすると、姫君がましゅ・がいあーへの弟子入りを申し出た一件は、俺の魔法に匹敵する力を得るためと言う狙いもあったのだろうか。


「どうかいたしましたか?」

「いえ、失礼しました」


 この姫君はどこまで考えてあんなことを言ったのか。これは下手なことを口にすると後で痛い目をみそうだ。











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