第72話「そしてたどり着いた先は」だが、


「待て、これは事故だ! 俺は無罪なんだ!」


 監獄にぶち込まれ、左右の手に鉄格子を握ってそう主張する自分のヴィジョンが一瞬見えた。


「なんて嫌な光景だ」


 俺の中の後ろめたさがなせる所業か。だが、何らかの予知だとかそういうことではないはずだ。


「踏み台転生者と言う立ち位置的に何かやらかして最強主人公ちゃんに負け――」


 その上で投獄され、後で断罪と言うのはパターンとしてありうるかも知れない。と言うか、こう考えてしまうと先ほどのビジョンが伏線の様に思えて来てしまう。


「拙いな」


 考えただけどつぼにハマりそうだ。とりあえずこの件について考えるのはもう止めよう。無駄に使える時間もない。


「飛ばすぞ」


 こうなってしまった以上、俺に出来るのは密着時間を減らすことぐらいだ。だから、幼女に忠告すると空に浮かび上がり、全速力で関所からやや離れた位置を目指す。


「今のところ教え子たちの反応は――」


 俺が空気を押しのけることで発生する騒音が届きそうな位置にはない。今、この幼女以外の目撃者は居ないはずだが、だからと言って俺は現状を良しとしない。さっさと離れて貰う為にも風を切って空を進み。


「ここからは歩きだ」


 地面に降りると宣言と共に幼女を下ろし、施していた透明化を解く。


「関所の手前で隠れて待っていてくれると、説明の手間が省けるんだがな」


 そうもいかないことを俺は知っている。ここで別行動をとることは、自らの一部を使ってまで分身を作った竜を裏切るのも同じなのだから。


「スーザン?」

「わかっている、置いてゆく気はない、ただの愚痴だ」


 常識の説明ついでに教えた俺の名を呼ぶ幼女に、肩をすくめてから空を仰ぐ。


「めんどくさいことにならねばいいが――」


 そう口に出しかけてかわりにため息を吐く。危うくまたフラグを構築しかけるところだった。下手なことを考えるより、ただ足を動かした方がよさそうだ。


「あれか」


 黙々と歩き続けた買いもあってか、やがて何度か見た建物のシルエットが前方に見え始め。


「お待ちしておりました、どうぞ中へ」


 連れている幼女にも気づくことなく俺の姿を見た兵士が促したかと思えば、あっという間に俺は奥へと通され。


「竜の件はひとまずどうにかなったようだな」


 関所の最高責任者と挨拶を交わしてからそう切り出した。


「何故それを?」

「ここに来るまでにまだ残っていた難民の姿を遠目に見かけたというのもあるが、半分くらいは推測だな」


 ましゅ・がいあー当人だからなどとは言えない俺はもっともらしく答えてから、問う。


「伝令はもう出したのか?」


 出会った場合だけで構わないとしつつも教え子たちへの言伝を伝令にしてくれるようにと俺は頼んでいた。もしここで伝令がすでに出ていれば、教え子たちへの合流を急ぐ必要が無くなるのだ。


「いや、我々には知らないことが多すぎる。かと言って」

「あの男の事を知る人間が居ない、か」


 俺からできるだけの事を聞いてから伝令を出すつもりだったのだろう。


「俺とてすべてを知るわけではないが」


 ここで伝令を出してもらえばこちらも少しは楽になる。話しても良さそうなことを選びながら俺はあらかじめ作っておいた設定を話し始めた。


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