第71話「幼女との距離」


「歩幅はいかんともしがたいか」


 とりあえず第三者視点で事案とかそう言うことは考えないことにして動き出したのは現実逃避の材りょ、もといコメントがなくなったからだった。そして、最初に気になったのは、幼女との歩幅だ。踵から股下までのコンパスを鑑みれば、歩みの速度に大きな差が出るのは、当然のことだ。


「それなら、背負うか抱き抱えればいい」


 第三者が居たら、そう気軽に提案するかもしれない。確かに、その方が一見合理的にも見えるだろう。だが、忘れないでほしい。魔法で見た目と感触をごまかしてはいるが、この幼女が全裸だということを。


「有罪だ」


 一方的な言掛かりやこじつけで人を性犯罪者扱いする頭のオカシイ人ではなく、周囲から公平公明と認められた良識のある人でも確かに有罪ですなと頷きかねないほどに事案である。


「どういたちまちた?」

「いや、何でもない。それよりもお前には――」


 だから、関所に向かっていた俺が幼女に人の常識を教えつつも、相応に距離感を意識してしまったのは、きっと仕方のないことだと思うのだ。


「しかし、遠いな」


 竜として爆走した距離を幼女の足で半ば引き返しているようなモノなのだから、当然と言えば当然だが、未だ関所もくてきちその1は見えず。


「とはいえ、ましゅ・がいあーの去った方角と今の俺スーザンのやって来た方角が重なるのはよろしくないしな」


 迂回をする必要まであったのだから、ある種のやむを得なさはある。当初はそれでも常識を教える時間が長く取れると考えて良しとしたのだが。


「あまり遅くなっては拙い」


 迷子を保護したと言う言い訳も、関所に来訪した時間によっては不自然に映るだろう。


「結局のところ、『俺が運ぶしかない』ということか」


 直接触れなければいいというならやりようはある。俺は近くに生えていた木の枝を切り落とすと、荷物の中にあったロープと組み合わせ、それを作り上げる。段差が一段しか存在しない縄ばしごとでもいえばいいだろうか。


「これにぶら下がれ。このままだと予想以上に時間がかかる。姿を消して飛んでゆく」


 お手製のぶら下がり装置とでもいうべきモノを差し出しつつ、俺は脳内地図で現在位置を確認する。


「ここが、ここだとすると……いや、念のため大きめに迂回するか」


 空を飛べるなら、先ほどの様に所要時間を気にする必要はあまりなく、ぶら下げているだけなら邪推はされない。


「完ぺきだ」


 遅れは充分取り戻せるだろう。俺は確信し。


「そんなことちなくても、わたくちがちょくせつしがみつけばいいだけでちてよ」

「あ゛っ」


 幼女の行動によって事案が完成してしまったのだった。




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