第69話「だけどさ、結局のところ――」
「いい年した大人の男が血縁関係も何もない幼女を連れまわすとか、それだけでアウトなのでは?」
そんな疑問がふいに浮かんでしまったのは、俺が前世として別の世界の記憶を記憶を持っているからだろうか。確か、あちらの世界では見知らぬオッサンから挨拶されたというだけで通報がなされるという意味不明な社会でもあった気がする。
「どういう脳内構造をしていたらそれで通報に至るのかがわからんが」
オッサンの表情とかがよっぽど胡散臭かったのか、通報者が病的なロリコンで自分の性的趣向を他人に当てはめて邪推したのかは知らないが、流石にレアケースだと思いたい。
「っ、いかん」
今世にはどうでもいいことを考えて居る場合ではなかった。
「それで、俺にコイツを連れてゆけと言うのだな?」
「その通りでしてよ。その子はわたくしの一部、離れていてもどこにいるかは解るし、距離が近ければ見聞きしたことをこちらが理解することも出来澄ますわ」
「子機か!」
ファンタジーな世界にはそぐわないが、思い浮かんだ単語はそれだった。
「子機?」
「なんでもない、こちらの話だ。それで人型になるのはどれぐらいかかる? 全て終わらせても尚かかるというなら、ここへ迎えに来るが」
いろいろなモノを割り切るとしてもこれだけは確認しておかなければならないモノがあるとしたら、まさにそれだろう。
「そうですわね。時間をかけた方が身体への負担がへるということもありますけれど、協力者を煩わせることも本意ではなくてよ。むしろ、そちらとしてはどちらが好ましくて?」
「それならば、すべてが終わった後だな」
人型を取った場合の参考になりそうな幼女が一人視界の中に存在するが、これを単に大人にしただけだったとしても、それは誰だとツッコまれかねない。もっとも、それを言うなら幼女だった同じではあるのだが、竜の騒動ではぐれた迷子を保護したとでも言えばこちらは誤魔化せると思う。事前に口裏合わせをしておく必要はあるが、幼女なら何を聞かれても知らない解らないで乗り切ったって不自然ではないだろう。
「承知いたしましたわ。でしたら、用件を済ませて迎えに来て下さった時には人間の姿を披露して差し上げてよ」
「披露とは言うが、幼いバージョンは既に見ているからな」
驚くとは思えないし、それよりも。
「今はこっちの小さいのとの打ち合わせが優先だ」
関所に着くまでには偽りの設定を演じられるようにしておく必要がある。
「元のお前の理解力を鑑みると、何とかなりそうな気はしているが――」
油断は禁物。元々のコイツは野生動物で、人間の常識には疎いところがあるのだ。
「食事の時間帯は避けるべきだろうな、おやつの時間と」
さすがにテーブルマナーを仕込んでいる時間はない。
「ではな、行ってくる」
小脇に幼女を抱えると、竜の方には振り向かず、俺は歩き出した。
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