第68話「求めたもの(閲覧注意)」


「いや、理屈は解かるが――」


 要求されたのは、身体の一部。体液などでも構わないということだが、これはいわゆる人間のDNA的なモノが欲しいということなのだろう。自身をそれに寄せるための雛型として。


「仕方あるまい」


 拒否のための有力な理由を思いつけなかった俺は、最終的に諦念とセットで己が髪を何本か差し出した。


「ありがとうございますわ。暫しお待ちになって」

「ああ」


 どうやって切り離すのか。興味がないと言えば嘘になるが、敢て背を向ける。こう、グロテスクだったりして精神的なダメージを受けることを恐れたというのもあるが、性別的には雌。じろじろ見るのもよろしくないと思ったのだ。


「っく、ぐ……ふぅ」


 短く痛みをこらえるような呻き声と共に、何かが落ちる音がする。続いて液体が地面にぶちまけられるような音がしたかと思えば、肉のきしむような音が続き。


「大丈夫か?」


 振り向きたくなる意思を抑え、代わりに尋ねた。


「はぁ……はぁ、も、問題なくてよ」

「息も荒いし、額面通りに受け取りづらいのだが……痛むなら、俺は傷を癒すことも出来る」


 必要なら言ってくれと俺は続けようとし。


「だいじょーぶ、でちてよ?」


 言葉が口から出るよりも早く、濡れた何かが、俺の手に触れた。


「おまたせ、いたちまちたわ」

「え゛」


 釣られて視線を移動するより早く、視界の中に出てきたのは、濡れそぼった全裸の幼女。燃えるような髪の色に謎のデジャヴを感じながら俺は凍りついた。

 

「人に近づくために俺の遺伝子を利用した」


 ならば、髪の色が似るのは当然だろうが、裸で幼女は拙い。事案だ。事案であった。切り落とした身体の一部が元なら、年齢的には幼女と言うのは正しくないだろうが、竜はもとより全裸。服の事を欠片も考えていなかったのは、俺のミスだろう。


「着る物っ、何か――」


 我に返った俺は荷物をひっくり返す。流石にこの幼女をそのまま連れてはいけない。社会的に俺が終了する。だが、こんな事態は想定外だ。着替えなどの物資の大半は教え子たちの連れる馬が曳いた馬車の中。変装用に十分な衣服があれば、そもそもましゅ・がいあーだってあんな格好にはならなかったのだ。


「幼女版ましゅ・がいあー?」


 論外だ。


「くっ、その辺の植物を魔法で加工するか? ……いや、それでは着心地に問題が――」


 そも、服になるような巨大な葉を持つ植物が見回す限りに存在しない。


「どうすればっ」


 打開策は思いつかず。


「まほーですがたをかえては、だめでちて?」

「っ、そうか」


 答えをくれたのは、当の幼女だった。急いで俺は幼女を服を着た姿へと魔法で変える。


「すまんな、助かった」


 掛け値なしの本音を口から漏らしつつ、頭を下げた。



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