第66話「『告白』って書くと誤解を招きそう」
「ここならばいいかッ」
魔法による脳内マップで追跡者が居ないことを確認して、覚悟を決める。
「止まれッ! この辺りで国境を超えるッ」
「承知しましてよ」
命じれば竜は即座に止まり。
「だが、超える前に伝えておくことがあるッ」
それを見届けた上で俺は竜に告げる。この格好は仮の姿なのだと。
「説明しようッ。自慢になってしまうが、俺は人間の中では有名なのだッ! それ故に身動きが取れなくなる時があるッ! そんな時の為に用意した偽りの姿がこの『ましゅ・がいあー』なのだッ!」
「仮の……姿?」
「いかにもッ、そして本当の姿が――」
俺の言葉を反芻する竜に肯定して、変身を解く。
「このスーザン・ノウンオウルだ。呼びにくければ、スーザンでもスーさんでも好きに呼んでくれ」
覆面を取ったからだろう。いくらか開けた視界の中に驚き固まる竜の姿がある。魔法による変身で体格もいじっていたのだ、驚くのは無理もない。
「だが」
驚きに付き合って我に返るのを待ってやれるほど時間的な余裕はない。流石にこのまま教え子たちの元にこの竜を連れて行くわけにはいかないからだ。
「王都に関所経由で報告書を届けて貰い――」
俺自身は教え子たちの元へと事情説明に赴く。その間、竜にはどこかで待っていて貰わねばならない。その、竜に待っていて貰う為の説得が若干不安であったりもする。関所へ先行した時の様な短時間の別れとはなりえない上に、明確な行き先を竜に告げられないのだ。
「まず関所に赴き隣国の姫君と香草の栽培についての話をし、交渉の結果を含む王都に報告しなくてはならないことを手紙にしたためて関所の報告と一緒に送る」
関所でやらなくてはならないことだけでも二つあり、終える時間も不明確。さらにそこから竜の元には戻らず関所に向かってきているであろう教え子たちへ会いにゆく。竜を迎えに行くのは、教え子たちを引き返させた後だ。距離もある。下手をすれば竜と出会って今に至るまでよりも時間がかかるかもしれない。
「隠し立てしても意味がないことだからな」
隠さず打ち明けて、待てるかと俺は問うつもりだった。
「偽りの姿の方が、強そうでしたわ」
「は?」
だから、今更ながらにスーザンの姿への感想が返ってくるというのは予想外だった。しかもましゅ・がいあーの方が良かったような口ぶりでもある。
「番に選ばれるよりはマシ、と言うかその確率が下がったとなれば喜ばしいことの筈なのだがな……」
喜ぶに喜べない。
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