番外「そして彼の人は去り(???視点)」


「結局、何だったのでしょうか」


 竜とその頭に乗ったあの変態ましゅ・がいあーが見えなくなってから、部下の一人がかすれた声でつぶやいた。


「『何だった』か……」


 こちらが聞きたい、と言いたいところだが。


「一つ上げるなら、『恩人』だろうな」


 少なくとも恐慌に陥った難民がこの関所を無理やり突破するという事態は避けられた。あちらが勝手にやった結果、助かったという形だが、助かったのは事実なのだ。


「そして私達はもうしばらく暇とは無縁だろう」


 竜の脅威が去り、難民が引き上げたとしてもそれで終わりではない。恩人と竜の話が真実であれば、まだ始まりに過ぎないかもしれない。竜を無害な存在にしたというあの香草が事件を引き起こす可能性は残されているのだから。


「今度は香草を求めて我が国からあちらへ向かう人間が大量に押し寄せる、とかな」


 懸念されることを思いつくだけ書き記して王都に送る。魔法製作者とも連絡を取ってあの男ましゅ・がいあーの事を聞く。隣国とのやり取りも増えるであろうことを鑑みるなら、この関所を頻繁に使者が行き来することになっても不思議はない。


「加えて、私達が王都に召集される可能性がある」


 いや、可能性があるというレベルではなく、かなり高い確率で王都に呼ばれると見て良いだろう。私達は目撃者なのだから。


「大国を滅ぼすほどの力を持つ魔物を従えた男」


 最大限に警戒すべき人物であり、言動がもたらす影響は計り知れない。あの男ましゅ・がいあーが何々と言う国は許しがたい滅ぼすと言っただけで、国の規模によっては瓦解しかねない。竜も強大な力を持つが、あの恩人はそれを軍門に下した。低く見積もっても竜と互角程度の実力を人の身で身に着けているということになる。大国を滅ぼせる力の持ち主が一人と一頭。この大陸にかって存在した最も大きな国ですら両者から一度に攻められれば耐えきれず滅びたことだろう。東の隣国はその大国が三つに分かれて出来た国の一つであり、国力を充分理解しているからこそ言える。お隣の国が三倍の国力を得たとしてもあの巨体は止められまい。


「だからこそ一挙手一投足が注目されることになるな」


 同時に人々は疑問を抱く。ましゅ・がいあーとは何者かと。覆面で顔を隠していたが、逆にそれが人々の興味を掻き立てそうだ。竜を伴って現れたならそれどころではなく騒ぎになる光景しか想像できないが、それならば近隣の

街や村に通達を出しておく必要もある。


「竜を従えた変態が現れるかもしれないが、手を出さなければ危害は加えてこない、安心されたし」


 とかだろうか。見る限り国境を越えた様子はなかった。だから通達は念のためではあるものの、あの両名なら道なき山中を踏破して国境をまたぐなど訳もない。


「できるだけ被害がないことを祈るしかないな」


 歎息と共に呟いた私は報告書作成のため、自室に向かって歩き始めたのだった。



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