第65話「一つの事件の終わり」
「おーっほっほっほっほっほっ」
高笑いが聞こえる。
「とうッ」
竜の姿が視界に入ってからは早かった。脚力を強化しつつ地を蹴り、空中で飛翔魔法を使うことにより、人間離れした大ジャンプを演出し、竜の前に降り立つッ。
「待たせたかッ?」
「今着いたところでしてよ?」
短くかわす会話。
「難民たちがいつ恐慌をきたしても不思議はないッ」
これ以上の前進は不要と言外に告げ、難民たちの視線を、関所の兵たちの視線を一身に受けながら俺は言うッ。
「跪けッ」
「はい」
あらかじめ決めていた。だから命に竜はすぐに従った。四肢を折り曲げ、腹を地につけ、続いて頭をゆっくり下ろして、アギトが地についた。俺を前に伏せた様な格好だ。
「乗るッ」
一応断りを入れてから頭部へと飛び、くるりと向き直ると竜の頭上から難民たちの姿を見た。顎が外れそうな顔をした者、頬をつねる者、ひれ伏す者。反応は様々だが、今、この俺と竜の様子が見えているのは間違いないッ。
「姫よ、こうなっては仕方ないッ! 話の続きは、あの男を直接向かわせるッ、奴に頼むッ!」
「行くぞ、行き先はこちらで指示するッ」
「承知いたしましてよ」
俺を乗せたまま竜は頭部を擡げ、次いで四肢に力を入れると立ち上がる。
「あっちだッ」
向かうなら、北だ。国境を越えたいところだが、人の目のあるここで不法入国する訳にはいかないッ。工作員を出していたゲドスへのけん制を兼ねて人の目のつかなくなるところまでは、まず北へ国境線を沿うように進む。元の姿に戻るなら、説明をした上で、そこでだろう。
「追跡はないと思いたいがッ」
大国を滅ぼしかねない者が国の中にいるとなれば、気になるのは仕方ない。
「だが、こちらが急げばどうなるかッ」
馬では追えない。姿を隠しての追跡など不可能だ。足跡をたどることならできるだろうが、俺には索敵用の脳内地図もあるッ。
「逆に補足して、待ち伏せ、くぎを刺すッ」
それで終わりだ。もっとも、竜を従えた相手の心象を悪くすると考える頭があるなら、普通は追跡などさせないが。
「後は――」
竜にいつ打ち明けるかだッ、ましゅ・がいあーが仮初の姿であることを。一応
「タイミング、かッ」
ポツリ呟き、後方を顧みる。気づけば関所はずいぶん小さくなっていた。
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