第64話「思った以上に食い付いてきた」


「しかしなッ」


 一度信用して退くと明言しておきながらこそこそ調べたというのは体裁が悪いし、調べる程度に信用していないのになぜ引き下がったと問われかねないッ。そも、それはそれとして。


「失礼しました。とんだ醜態を」


 隣国の姫君に話を通してもらう騎士が我に返って頭を下げている今、教え子たちへの言い訳について考えているわけにはいかないッ。


「気にすることはないッ! だが先ほどの件については可及的速やかに話し合う必要があるッ」


 関所の方からも見届け人は出ているのだ。香草と今回の竜の件はうちの国にも伝わる筈。ましゅ・がいあーと面識があるとしている上、関所までは出向いたのだ。香草の件に関してはスーザンに話が回ってくると見るべきであり。


「放っておいても話が回ってくるのだから、今の内にやってしまうべき」


 と考えるのは当然だろうッ。宿題は早めに片付ければ遊ぶ時間が増える。前世の俺はその考えから夏休みの宿題はフライング気味に手を付けるタイプだった。この件に関してもその例に漏れない。


「姫のところまで案内して貰おうッ」


 後の問題解決を竜がこの関所にたどり着くまでに済ませておく、ただそれだけのことではあったが、ここまで言っておいてなんだが、不足することになるであろう香草をどうにかする手段は思いついていないッ。せいぜいが栽培場所を増やすことができるなら些少はマシになるだろうとうちの国でも栽培してみたいと提案することぐらいだ。これで、うちの国の気候では栽培不可能ですなんて答えが返ってきた日には、秘匿魔法を一つ公開して温室栽培とかを提案せざるを得ないッ。


「わかりました、こちらへ」


 札を一枚切るべきか否かを密かに悩む俺の要求に応えた騎士は歩き出し。


「ご懸念はもっともです。私の権限が及ぶ限り最大限の協力をすることをお約束します」

「そ、そうかッ」


 たどり着いた部屋で挨拶もそこそこに懸念を伝えると手を触れられ、気づけば俺の右手を両手でしっかりと持った姫君が息も届きそうな程の距離まで接近していた。あまりの食いつきっぷりに約款気圧されてしまったのは、否めないがそれにしてもここまで全面的な協力を約束してくれるのは、少々予想外だったッ。予想外ではあるが、俺としてはありがたいッ。


「生憎俺は助けを求める声を聞き、東奔西走する根無し草ッ! だが、この国であればそれなりに発言力を持った男と面識があるッ!」


 もちろん、その発言力のある男と言うのは、スーザンの事だッ。


「こちらから言い出したことだッ、スーザンには俺の方から話しておくッ」


 自分自身の事なので話すも何もないのだが、これで予定通りに事は運べる。あとは竜が到着し次第、見届け人に見せたように、竜が俺に従う様子を見せ付けるだけだッ。


「竜だーっ!」


 部屋の外からそんな叫び声が聞こえてきたのは、スーザンへの連絡方法など必要なことをある程度伝え終えた頃だった。


「用事がやってきたようだッ、暫し席を外す」


 俺はすぐさま部屋を出て外へと向かったのだったッ。











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