第63話「そして、為すべき事」*
「竜については今見聞きしたとおりッ、それが現実だッ!」
身をよじり、己の拳同士を突き合わせつつ俺は言い放つ。用意した「この竜は無害ですプログラム」はつつがなく終了したッ。後は見届け人と共に関所に戻るだけだ。もっとも、関所の面々に見聞きしたことを伝える時間もあるだろうから、竜には少し遅れてついてきて貰わざるを得ないが、そこは仕方ない。
「この竜が無害とわかれば、問題も解決しようッ! 故に、速やかに戻るべしッ」
言葉で促すと同時に脚力を魔法で強化して地を蹴る。芸の為に作った道具とも名残惜しいが、ここでお別れだ。やらなくてはならないことは多く、感傷に浸っている余裕はないッ。振り返ることさえせず、景色は飛ぶように流れ、関所に戻ってくるまでにそれ程時間がかかった気がしないのは、俺が自分でも気づかない内に急いていたのか。
「あの姫に話があるッ」
各々疲れた様子ながらも馬を下り報告に行こうとする見届け人の中から一人、隣国の騎士を呼び止めて告げると、続けて香草の値の急騰や品不足などに危惧を抱いた旨を囁くよう小声で伝えた。小声と言うだけでましゅ・がいあーらしくない気がするが、だからこそ居合わせた他の見届け人は気づくまいッ。
「と言うか――」
騎士本人まで暫く惚けたように立ちつくしたのは、想定外だったッ。それ程意外だったのだろうか。
「さてッ」
ならばこの騎士が立ち直るまでの間も有効活用すべきだろう。そう、寄せて頂いたコメントのチェックだッ。すぐさま意識をそちらに向ければ、新しいコメントを一つ確認出来。
『うーむ、そうかなぁとは思ってましたが落石程度では足止めにはなりませんかぁ……』
最初の一行で先程土下座させて頂いた方の返信と気づき、内容に頷く。おそらく、急に地面が隆起し山になったとかだったとしても自分であればトンネルを開けて通ってしまいそうな気がするッ。しかも、これも馬車で移動していて車両を通さなければ行けないという前提の話だ。単身の俺を足止めするとなると難易度は更に上がる。だが、いずれ教え子達と合流することを考えると時間をロスした理由のでっち上げは必要不可欠であり。
『 物理的ではないその場に留まらざるを得ない事態とかどうだろうと思いましたが、竜以上の緊急事態がそうあるとは思えませんしねぇ』
まさにそれだッ。
「ゲドスの工作員はもう捕まえたしなッ」
それでも無理にでっち上げるとしたら、突き出す工作員が居ない以上、逃げられたと言うことになる。
「まず信じて貰えないと見たッ」
教え子達が護送していった工作員の質を鑑みると、どう考えても無理があった。まだましゅ・がいあーが何故自分に任せろと言ったのか裏付けで調査していたとかの方が説得力があるッ。
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