第62話「証明の終わりへ」
「いや、もう充分だと見たッ!」
俺は半分くらい別のことを考えてはいたが、竜が指示を求めてくるということはあらかじめ教えた芸が一巡したということでもある。流石に人間憎しで視認すれば襲ってくる通常の竜とは別物であることぐらいは見届け人達も理解したであろうッ。
「次は、会見だッ」
より安心させるためにも、竜が竜となった経緯と人を襲わない理由についても当竜の口から説明させると言う訳だ。もちろん、今後の身の置き方など確定していなかったり話すと問題になりそうなことは言い含めた上での話となる。魔物が人を憎む理由と言うか仕組みと魔物誕生のプロセスについては明かしてしまっていいのか、少し考えはしたが、その辺をぼかして納得させるのは難しいと判断して、敢えて公開することとしたッ。
「情報を公開すれば、恩が売れる」
それが公開を決めた理由の一つ。
「得た情報を使って、自国に従う竜を作るのは、ほぼ不可能に近い」
という悪用されないかを考慮した上で出た結論も背を押したッ。この竜を竜としたナニカは足元から噴き出してきたと聞いた気がするが、竜の目撃例はそれほど多くない。俺としても二例だけだ。生まれて今に至るまで二例なのだッ。生き物を竜に変えるナニカが頻繁に吹き上がっていれば今頃世界は滅んでいる。竜に変わる程のナニカが噴出する頻度は恐ろしく低い上、ナニカの正体は不明で、吹き上がる場所が固定かどうかさえ分かっていないッ。
「気づけばわたくしの身体は――」
竜がすでに始めていた説明を聞きながら、俺は考える。問題があるとすれば、この情報が広がった時、竜が好んでいたという香草の需要が跳ねあがることであろうと。通常の動物を魔物に変えるナニカが突然地面から吹き上がるというのだ。愛玩動物を飼っている者、豚や牛など家畜を育て、売って生計を立てる者にとって買っていた動物が魔物化するのは悪夢以外のなにものでもない。そんな折、魔物化は免れないとしても人への敵意を抑え込めるというなら、安全の為にこぞって買うことだろうッ。その需要に耐えきれるのかが、ただ気になる。
「竜の問題が解決した時、すぐさま香草を買いに走る者がどれだけ出るかはわからないが――」
現時点で問題が起きることを把握しているのは、俺だけだ。
「気は進まないが、あの姫君と話をするべきと見たッ」
うちの国でもあの香草が栽培できれば問題も些少は緩和されるだろうが、あれはこの国の特産品。
「自国でも栽培できるか研究したい」
などと言ったところで、普通なら断られるのが目に見えている。だが、申し出たのが竜の問題を解決した
「竜の受け入れもこれに絡めれば、ある程度通りやすくなる筈ッ」
万全ではなかろうが、俺に思いついたのはそれぐらいであったッ。
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