第61話「とりあえず土下座をしておこう」*
「おーっほっほっほっほ」
芸を披露する竜の高笑いが響き渡る。順調、そう順調だったッ。見届け人の一人が突然謝罪をしたりもしたが、魔物が乱入してきたりもせず、竜が要らないことを口走ったりもしていない。順風満帆というにはこの先解決しなくてはいけない問題が幾つかあるが、関所と難民については見届け人に証言して貰った上で実際無害なこの竜を見せ、生活を脅かす竜は居ないと理解させれば問題は解決だッ。
「しかし――」
にもかかわらず、何かが引っかかっていて、俺は唸る。歯に何かが挟がったままの様なモヤモヤが俺の中には確かに存在した。ひょっとして、何か忘れているのだろうか。
「その内やってくるであろう、教え子たちのこと」
覚えているッ。
「竜の落ち着き先を探さなければいけない問題」
忘れては居ないッ。
「竜の番を用意することと、報告の仕方を含む竜をどうやって国に受け入れてもらうかと言う問題」
かなりの難事だが、今は関所の問題を解決すべき時だッ。
「むうッ」
重要なモノはすべて覚えている気がする。だが、それなら、モヤモヤは何だというのか。
「あ」
しばらく考えて、俺はそれに気付いた。そう、コメントだ。
「うん、何と言うか、本当にスマンッ!」
声に出すわけにはいかない、実際にやっても駄目だ。だから俺は心の中で即座に土下座した。そして、土下座しながら、恐る恐るコメントの内容を確認させていただく。
『コレは確かにやりたくなかったのも納得』
その一行でだいたい察した。
『「アイツがいれば大丈夫!」という絶対的な信頼が無ければ立ち去るなんてしないと思いますからね』
続きで確信に至るッ。あそこだ、スーザンとして俺が関所の最高責任者へ同行しない旨を伝える覚悟を決めたところだろう、しかし。
『どこかで足止めを食らったとかは来れない言い訳として苦しいのかなぁ? 病人を助けてたとかだと、その病人は何処だと突っ込まれたら苦しい気もするし……』
俺は続きを拝見しつつ、声には出さず唸るッ。いい訳、そういい訳だッ。状況は違うが、ましゅ・がいあーに竜を任せたなら、教え子達の元にも戻らずスーザンは何をしていたのかという問題となる。
『 弟子たちと合流して一緒に向かう途中で、通り道に落石があってソッチに行けなくなったとか? で、またそこから抜け出して……って忙しいか……』
続きを拝見し、落石に道を阻まれた場合を想像してみる。
「邪魔だ」
一言と共に魔法で土砂を跡形もなく吹き飛ばす自分が浮かんだ。落石というかだいたいのアクシデントは魔法により独力で解決してしまえるイメージしか浮かばず、俺は脳内で頭を抱える。
「不覚、自分の万能さに足下を掬われるとはッ」
もちろん声に出してそんなことは言わない。
「おーっほっほっほっほっほ、さ、次のご命令はなんでして?」
俺の胸中とは対照的に上機嫌な様子で竜は俺に尋ねた。
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