番外「とある騎士の後悔(騎士視点)」
「っ」
ただひたすらに私は後悔していた。走らせる馬の先を行く脚力、そして、言葉をたが得ることなく、竜と気安くやり取りを交わし、芸まで披露させている今、姫のお言葉を思い出す。
「あの方は、騙りなどではありません」
真実だった。大国すら滅ぼす筈の脅威が、見世物の為に飼いならされた動物であるかのように輪をくぐっている。あの、竜が。
「信じられ……いや」
否定したところで目の前の現実は変わらないし、自身の愚かさを露呈するだけだ。
「竜」
我が国に竜が現れた時、姫はとある貴族の領地の視察中であられた。姫はお優しい方だ。視察と言うのは名目であり、病に倒れられた領主であり母方の祖父をお見舞いなさるために足を向けたのだということを親しくさせていただいている者なら誰でも知っている。視察は当然中止、現在地からすると王都に戻ることもできず、隣国に身を寄せるべきと言う意見から国境に足を運んだ私たちが目にしたのは、竜に怯え難民となり押し寄せた民衆だった。
「姫様と俺たちは許されたとしても、あいつらは……」
やるせなさそうに同僚は顔を歪めた。いくら姫がお優しいとはいえ、関所の責任者に談判しにゆくとは思っても居なかったのだろう。だが、姫は行かれた。私たちの幾人かがお止めしたりしたにもかかわらず。そして今度は、竜を軍門に下したと豪語する怪しいを通り越して変態的な姿をした男へと興味を抱かれた。
「竜を従えたなら、アレの指示でもなければ竜はうちの民を襲わない。恩人ってことにはなるだろうが、それが真実だったらの話だろ」
あり得ないと同僚は一笑にふし、私も同意見だったため、姫をお諫めした。だが、姫は翻意なされず、こともあろうにあのましゅ・がいあーなる男に弟子入りを申し出たという。大騒ぎになった。その上、弟子入りを断られたのだから血の気の多い同僚や、普段から威張り散らしている姫お付きの侍女などは飛び出して行きそうな勢いであったが、にもかかわらず、姫はましゅ・がいあーの評価を変えられなかった。いや、どちらかと言うと、弟子入りを断ったことでより評価を高められたようですらあった。
「あの方の格好にも理由があるのです」
姫は仰られた。竜を下すほどの力があるのなら、興味を持つ者やその力を利用しようと企む者が現れるでしょうと。あの変態的ないで立ちはその手の接触や興味をはねつけるモノであると同時に、本来の姿を隠すためのモノなのでしょうとも仰られた。なる程、覆面をしていれば顔は解からない。あの格好を見たら頭のオカシイ人物なのではないかと疑いもするだろう。
「……姫の仰ったことは、正しかったのだ」
竜が疑いもなく従っている現実こそ、その証左。すぐさま私はかの人へと謝罪したのだった。
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