第60話「証明」
「おーっほっほっほっほ、お話は伺っていてよ」
伺っていてはいいのだが、高笑いされるとこっちが軍門に下した気がしないのだがと突っ込みたくなる俺が居たッ。
「りゅ、竜だ……」
「本物の竜だ……」
かと思えば後方では呆然とした見届け人達の声。気持ちはわからないでもないが、偽物でどうするとツッコミたくなったのも事実。
「では始めるとしようッ!」
襲ってこない竜を見せただけで目的の半分くらいは達成した気もするが、やり通さなくては曲芸用に作った道具も作成と芸自体を考えた時間も無駄になってしまうッ。
「まずは輪くぐりからだッ!」
「「輪くぐり?!」」
見届け人の声が重なるが、ぶっちゃけどうでもいいッ。そんなことよりも、苦心して拵えた輪っかが日の目を見るのが感慨深かった。
「竜の巨体で潜れる輪」
道具もロクになく材料の限られた状況下で何とか作り上げたそれは蔓の様に他の樹木に絡みついて成長する木を竜に引き抜いてもらい、魔法による加熱をしつつ編み込んで作った一品だッ。
「生憎とサーカスの経験はないが、めったに見られるもので無いことは保障しようッ」
人を憎まない竜が他に存在する確率はかなり低いと思うので、こうして俺が竜にやらせなければ、見ることはほぼ不可能だと思う。
「しかし、サーカスかッ」
最強主人公ちゃんの踏み台になった後、逃げ出した先で竜を連れて見世物をする光景を想像してみる。集められた魔法の光を浴びた竜が、俺の指示に従って大きな球に乗り、火のついた巨大な輪をくぐる。ほぼ間違いなく現実には起こりえない光景だッ。この竜をうちの国が受け入れたとしたなら、戦力として見込む筈。出奔など許しはしないだろうし、見世物などもってのほかだと断じるだろう。
「おーっほっほっほ、これでよろしくて?」
愚にもつかないことを考えている間に、竜は輪をくぐり終え俺に問う。
「うむッ、次は――」
「これまでのご無礼をお許しくださいっ」
そして、更なる指示を出そうとした時であったッ。割り込んできた見届け人の一人、隣国の騎士が唐突に俺へ向かって頭を下げてきたのは。
「馬よりも速く走る脚力、竜を従える実力……姫様が正しかった。私は外見に惑わされ、いえ、『外見に惑わされた』など言い訳にしかなりません」
頭を下げたまままくしたてる騎士を前に俺は言葉を失う。むしろ惑わせるための外見なのだから仕方ないとフォローしておくべきなのだろうか。
「謝罪は受け入れようッ」
少し迷ったものの、このままだと他の見届け人が置いてきぼりを食う。俺は
騎士へと告げると竜への指示へと戻るのだった。
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