第59話「待たせたな」
「追加の同行者が居なくなったなら、もう出発できるということだなッ」
竜の居る場所までは一日もかからない。野営の支度をしなくていいのだから荷物も俺が士官学校を出たときとは違い少なくて済む。ついでに言うなら、スーザンを待つ間も出発の準備は同時進行で進められたはずだッ。
「難民の不安を取り除くにも、竜が脅威で無くなったという証明は早い方が良いッ!」
関所の人間としてももたつく理由があったとしたら、
「竜が無害だと理解れば、難民たちも元の暮らしに戻れるし、隣国に平和が戻るッ」
それは難民への対応に追われていたこの関所の人々にとっても望むべきことの筈ッ。もっとも、俺の方は今後の竜の身の振り方など問題が残っている為、それでめでたしめでたしでは終わらないが。
「つくづく損な性分だッ」
声には出さず自嘲する。ただ、もしましゅ・がいあーにならず教え子たちと共に行動してあの竜と出会っていたら、それはそれで面倒なことになった可能性も否めないッ。例えば竜に怯えた教え子の一人もしくはそれ以上の人数が暴走して竜に攻撃を仕掛け、なし崩しに戦いになってしまうとか。
「割と最悪な展開だなッ」
ここまでの経緯を鑑みて、そう断じるッ。あの竜は人への憎しみで曇らされていない分、知能が高い。生半な攻撃を仕掛ければ思いもよらぬ被害を出していたはずだ。
「お待たせした」
出立の準備ができたと連絡を受けたのは、そうしていくつかのケースを思い浮かべた後のこと。
「では、よろしくお願いする」
「うむッ」
最高責任者が関所を空けるわけにはいかないというもっともな理由で、見届け人として俺に頭を下げたのは、指揮官が一人に兵士が数名。無難な人選だったし、文句を言うつもりはないッ。
「後は騎士が一人かッ」
「ああ」
加えて、隣国の姫君の護衛から騎士が一人ついて来る。元々竜の騒動は隣国で起きたのだ当事者としてついて来るのにおかしなところはない。
「すまない、遅くなった」
関所を隣国側に出て馬の準備をしていた時にその最後の同行者も現れ。四名が騎乗の人となってからは早かった。
「飛ぶがごとくッ!」
先頭を行くのは、脚力を強化し、一人だけ徒歩の俺。先導役でもある為、一番先頭を走るのは確定事項だッ。
「こういう時の風はいいッ」
嫌な気持ちを吹き飛ばして行ってくれる気がするッ。後ろで兵士たちがボソボソやり取りを交わしていたって気にならないッ。どうせ変態だとか何とか言っているだけであろうし。
「おーっほっほっほっほ」
「待たせたな」
やがてこちらの接近に気付いたのか、上がる高笑いを聞きながら、後方にすさまじい勢いで流れて行く景色の中、俺は見え始めた竜へと声をかけたッ。
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