第57話「変態と姫君」


「では、話を聞こうッ!」


 竜も人も待たせている今、時間は貴重品だった。これ以上まごついて時間はかけられない。だからこそ、単刀直入に切り出し、俺は相手を観察するッ。髪の色は金。それなりに長めと俺が感じるのは、俺が普段士官学校の教官をして居るからだろう。士官学校では魔物などを想定した白兵戦を教える事もある。邪魔にならないよう髪の長さについても校則がある為、学生の髪は短い。そんな学生達と無意識に比べたなら、髪が長いと感じるのも当然という訳だッ。


「まずは感謝を。わたくしたちの国を騒がせた竜は国にとっても民にとっても脅威でした」

「成る程ッ」


 俺の言を信じたと言うことかッ。それで、礼の為に呼び止めたとしたなら、不自然でも何でもない。むしろ、難民からは見えないこの場所だからこそ頭を下げることが出来たのかも知れない。今の俺ましゅ・がいあーの恰好はどう見ても変態だ。王族が頭を下げる相手としては不的確すぎるッ。だが、もし竜を何とかしてくれた相手ならば、頭を下げないのもあり得ない。


「竜をねじ伏せ軍門に下した強者」


 なのだ。人でありながら竜より力ある存在であり、竜を下した力が自国に向くようなことがあれば竜以上の脅威となる。機嫌を取っておく必要はあるし、あわよくば取り込もうと考える事だってあり得るッ。となると、これは礼だけで終わらないかもしれない。


「『まずは』と聞いたッ。つまり、用件は他にもあると見たッ」


 終わらない理由をこちらから口にして、視線も姫君へ向け、促す。


「は、はい。それなのです。わたくしの口からこのような事を申し上げると、はしたないと思われてしまうかも知れませんが――」

「ふむッ」


 話の文脈を考えれば、鈍い俺でもわかる。これはあれだ、求婚して配偶者の形で俺を取り込もうと言う魂胆なのだろう。


「変態でも竜を倒しうる実力者で、手に入れることが出来たなら、軍門に下した竜もついてくる」


 周辺国を震え上がらせるような力を手にすることが出来るのだッ。王族一人の配偶者の座と引き替えなら安い買い物だ。もちろん、首を縦に振る気は皆無なのだが。


「何故ましゅ・がいあーだけがモテるのか」


 片方は人外だとしても、短期間の間に一匹と姫君一人。まともに過ごしてきた俺のこれまでの人生は何だったというのかッ。変態か、変態じゃなかったからモテなかったとでも言うのかッ。


「わたくしを弟子にして下さい」

「は?」


 他のことを考えていた上に、相手の要求が想定外。思わず素の調子で声を漏らしてしまった俺が見返すと、そこには強い決意を込めた双瞳があったッ。




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