第56話「せわしなく、いれかわり」
「ましゅ、がい、あーッ!」
こう、変身に掛け声など不要なのだが、この恰好はテンションあげていかないとてもではないがやっていられない面もあるのでご理解いただきたいッ。関所を出たスーザンこと俺は、兵士達の視界から消えたところで念のため透明化してから場所を変え、こうして
「あれだけ大きな声なら関所にも届いたに違いないッ」
「飛び出す以前に関所の入り口に立っている兵士の片方が俺を指さしているので、間違いなく気づかれていることだけは明言しておくッ」
スーザンとしての出番は終わらせた今、逃げも隠れもしないッ。というかそもそもその必要がないとも言うッ。
「説明しておこうッ、トイレの場所がわからなかったので最寄りのトイレまで行ってきたのだッ!」
声がそれなりに届く距離まで関所に近づいた俺は、兵士が何か言葉を発すよりも早く、機先を制していなくなっていた理由を述べる。
「最寄りのトイレだと?」
「うむッ」
オウム返しに尋ねられ、ポージングしつつ肯定した俺は、姿を消さず魔法で局力を強化、全速力で適当な方向に走り出す。
「な」
とか声が聞こえた気がしたが、気にしないッ。数秒走ったところでくるっと反転し、同じ速度で関所に戻る。
「大体こんな感じで走っていったッ!」
実力の一端を見せつつ、それなりに離れた場所まで言っていても不思議はない移動速度を見せる為のいわばパフォーマンスであるッ。
「それなりに急いで戻って気はしたつもりだッ! ところで――」
筋肉を誇示するようおへその前で両拳を突き合わせるようにポーズをとりながら、俺は尋ねる。
「待ち人は来たかッ?」
と。待ち人当人である俺は当然知っているが、トイレ休憩していたこのましゅ・がいあーがそれを知るはずがないッ。俺に任せろと合図を出した以上、結末は予想していてもおかしくないとは言え、わざわざ言及する必要も感じない。
「それは――」
「答える権限がない、かッ」
言葉を濁したのを見て勝手に判断し、そういうことにする。無駄に時間を使うつもりはないし、俺は答えられない事情がある相手に無理強いして喜ぶ趣味も持ち合わせていないのだッ。
「ならば、あの男に直接聞こうッ」
宣言するなり関所に足を踏み入れ、速足で先ほど最高責任者と話をした場所へ向かう。
「あの」
そのつもりだった。
「むッ」
声をかけられ、振り返った先にいたのは声からすると隣国の姫。
「少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
想定外の接触に、想定外の申し出であった。
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