番外「それは姫様も黙っていませんね(???視点)」


「どう思われますか……その、あの『ましゅ・がいあー』と名乗られた方ですが」


 真剣な面持ちで尋ねてくる隣国の姫君を前に私は答えに迷っていた。


「そうですな……」


 まず、と言う問いのの意味合いでこちらの答えも変わってくる。そういう意味で、説明が圧倒的に足りていない。


「『竜を軍門に下した』と言う発言の真意」


 なのか。


「覆面に『変態』と書いた上、ほぼ下着しか身に着けていないという格好について」


 なのか。


「姫様はどう思われますかな?」


 質問に質問に返すのは問題かもしれないが、流石に情報が足りない。判断材料を得ようと逆に問い返しながら私は頭の中で情報を整理する。この姫君があの変態を直接見ていたのはそれほど長い時間ではない。侍女と思しき人物が視界を遮りこの関所の中につれてゆくのを視界の端に認めていたからだ。うちの関所を変態へのブラインドに使われるのは不本意ではあるが、気持ちはわからないでもない。


「わたくしは……」


 そうではなかった、今はこの姫君の答えから情報を得る方が重要だ。


「あのような方は初めてで……」


 そうでしょうとも、私だって初めてなのだ。


「ですが、わたくしの国の為に竜と戦ってくださった方です。竜はとても危険な魔物なのでしょう? わたくし、あの方にどう報いたら良いのか……」

「なるほど」


 とりあえずこの姫君はあの変態の言を真実と見做し、その上で変態への対応に迷っておられるらしい。


「そのことはお付の方々には?」

「話しておりません」


 その答えに、だろうなと思う。知っていればあの侍女あたりが迷惑になりそうなぐらいの大声で諌めた筈だ。


「では、まずお付の方々にお話しすべきですな」


 私は最高責任者ではあるが、隣国の一関所の最高責任者でしかない。広く意見を求めるならともかく、相談を持ちかける相手としては不適切だろう。


「あの『ましゅ・がいあー』なる人物の言葉が真実だったとすれば、こちらにとっても恩人ではありますが事実として確認したわけではありません。対応を考えるにしても事実確認をしてからでも遅くないとも愚考いたしますが――」

「そうかもしれません。ですが、わたくしは思うのです。あの状況で、竜を打ち倒し軍門に下したと嘘をついたとしたら、それでどうなるのか。『よかった、もう安心だと』皆が思うと、あの方はそうお思いでしょうか?」

「なるほど」


 この姫君は逆説的にあの変態の言が真実であると判断したということか。確かに嘘をもっともらしく信じさせるならそれ相応の恰好と言うモノがあるだろう。


「あの出で立ちにしても……竜に単独で勝ちうると言うのであれば、一国の軍隊にも勝る力を単独で備えているということになります。力を持つが故に人から興味を抱かれにくい出で立ちであることを徹底したとしたら」

「っ」


 あの格好に至るというのか。つい先ほどまで私は目の前の相手をただ、甘いだけの理想主義の姫君だと思っていた。だが、それは間違いだったのかもしれない。


「しかし」


 竜に勝ちうる実力を持ちながら見た目は変態。何と言う悪夢だろうか。私は思わずため息を漏らしたのだった。



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