第54話「たとえ気になろうとも」


「まだ会話中、か」


 たどり着いたのは、前に関所の最高責任者が隣国の姫君と話していた場所。あの時と違うのは、俺が元の姿であることと姿を消していないこと。透明化していないがゆえに存在する兵士の目はいくつかが俺に向いていて、たとえ中の会話が気になろうとも盗み聞きすることはほぼ不可能だった。出来るのは、先客の話が終わるのをこうして待つことのみ。


「いや」


 それも正しくはないか。待つ時間があるということは、考える時間が存在するということでもある。時間は有限。ならばここは成功責任者と会ってから話す内容について細部を詰めておくべきだろう。


「知り合いで実力『は』確かなましゅ・がいあーがここは任せろと合図を送ってきたので、詳しい経緯を知りたい」


 最初に切り出すべき内容はだいたいそんなところだろう。あとは、解りきっている経緯へ初めて聞いたかのような反応をし、最終的にましゅ・がいあーの意見を尊重して退くことを伝えるだけだ。


「スーザンが竜と会うと、竜が番としてスーザンをターゲッティングしかねない」


 ちなみにそれがましゅ・がいあー側から見たここは俺に任せろと合図を出した表向きの理由である。竜が人の配偶者を得ることを検討しているということを俺は、最高責任者や見届け人として訪れた者には話してもいいのではないかと思っている。すべてを秘したまま納得させるのは難しいと思っているし、あの竜の番候補を選定および育成するなら、竜が子を作るべき相手を求めていることはある程度公表しておくべきだとも思う。


「ひょっとしたら、話を聞いて自分から竜の番になりたいと現れるモノ好きも居るかもしれないしな」


 声には出さず、呟く。候補者は、選ぶのに支障をきたすレベルでなければ、多い方がいい。それはそれとして。


「だいたい、そんなところか」


 中の話が聞けたなら、もう少しどんなふうに話を持って行くかも決められるのだが、現状ではこれ以上どうしようもない。どんな話が合ったかを想像し、想像にそぐう形での受け答えを用意しておくというのも相手によってはアリなのだが、あいにく隣国の姫君にスーザンとしての面識はなく、ましゅ・がいあーとしても盗み聞きした短い時間のみ。


「人物像がつかみ切れていないので、どんな話をしているかが絞りきれない」


 という訳である。難民の受け入れを願っていたあたりを踏まえると善人ではあるのだろうが、こちら側で受け入れた側の問題について考えていないとするなら、世間知らずでもあるだろう。


「想定される一番問題のパターンは」


 俺と最高責任者との会話にも居座り、こちらの都合など知らず考えず良かれと思って思いつきを口にしまくり引っ掻き回されるといったところか。それならそれで、その姫君の事も俺がましゅ・がいあーに任せこの関所を後にする理由の一つにするだけだが。


「焦れるな」


 のんびりしていられるような状況ではないからか、気づけば俺の口からは短い独り言が漏れていた。




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