第53話「長い、夢を見ていたようだ……」


「一日にも満たない時間だというのにな」


 こう、なぜか一か月近くましゅ・がいあーをしていた気がする。楽しい時間は流れるのが早く、いやな時間は流れるのが無駄に遅いというアレだろうか。


「感傷も疑問も後だ」


 今はまず、このスーザン、もともとの俺の姿で関所を訪れねばならない。


「アレを知り合いと言わねばならないことも、アレの実力についてのを証言し、任せるといわなければならないこともモヤモヤするが――」


 もはや決めたことだ。他に有効な解決策を思いつかなかったこともあるが、合図だって出してしまった後なのだ。退くことはできない。


「もう事情は知らされているだろうが、スーザンだ。ここの関所の最高責任者への取次を頼みたい」

「はっ、少々お待ちを」


 姿を現し、今到着したという態で詰めていた兵に声をかければ、敬礼で応じた兵がすぐに関所の中へと引っ込んでゆく。いよいよか。


「お待たせしました、中にお入りください」

「ああ」


 戻ってきた兵に促され、関所の内部に足を踏み入れる。既に内部構造も把握しているが、真っ直ぐ責任者の元には向かわず。


「すまんが――」

「はい?」

「この関所の責任者はどこにいる? 本国から派遣されてきた者だが……」


 途中で兵士を呼びとめ、目当ての場所を尋ねたのは、からだ。


「それでしたら、あちらになります」

「そうか、すまんな」

「いえ、ただ……現在来客中の様でして」


 味方が派遣されることは聞いていたのだろう。すぐに責任者の所在を教えてくれた兵士はどことなくためらいがちに追加情報を口にする。


「その来客とは、覆面とほぼ下着だけ身に着けた男か?」


 種をまくなら、このタイミングだろう。俺は、敢てましゅ・がいあーの外見を並べて問うた。


「えっ」


 きっと俺が何であんな変態について知り得ているのか、理解が及ばなかったのだろう。固まった兵士に俺は何度かあったことがあるのだとネタばらしをする。


「恰好はともかく、困ったと人間は見捨てておけない性分らしくてな。魔物の討伐の時にかち合うことも多いが。だからこそ、伝えねばならんことがある」


 あの変態に任せて俺は帰ると告げるのだ。言いにくいことではあるが、俺はもう覚悟を決めた。


「そうではなくて、その来客と言うのが隣国の姫君らしく」

「な」


 そういえば、そんなひと も いましたね。


「そうか」


 明らかにやらかしてしまった感を表には出さず、俺は必死に耐えるのだった。







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