第52話「その男の名は――」
「とぅッ!」
そしてソレは掛け声と共に飛んできた魔物を追って現れた。
「変態」
そう、変態以外の何者でもない。ほぼ覆面と下着しか身に着けておらず。覆面の額部分にはきっちり古代語で変態と書かれているのだ。何というか、うっかり間違えて攻撃しても許される恰好であった。実際、こちらは魔法を放つ直前であったということもある。
「ぬ、人かッ!」
魅惑的な
「ならば説明せねばなるまいッ! 俺の名はましゅ・がいあーッ! 近隣住民の嘆きを聞き、武者修行がてら魔物を屠りに来た男だッ!」
そして、聞いても居ないのに事情を説明しながら筋肉質の身体をアピールするかのようなポーズをとる。意外なほどまともな言ってることは聞き流すとして、どうやら変態で間違いないらしい。
「「ギャウンッ」」
ポーズをとる間も俺を狙っていた筈の魔物が二匹ほど飛び掛かって行ったが、あっさり返り討ちにあって地面へと叩きつけられて、今断末魔らしきモノを上げたところだ。
「ぬんッ、ここは俺に任せるがいいッ!」
それだけでは終わらず、さらに残った魔物へと攻撃を繰り出してゆく変態。
「そうはいかん」
だが、俺とてわかりましたと引き返すわけにはいかなかった。世に出せない魔法の実験を兼ねてはいたが、ここに来た名目は、非常に不本意ながらもこの変態とほぼ同じでこの地に生息する魔物の掃討なのだ。こんな変態が居るなんて話は聞いていないので、おそらく依頼主が別口でブッキング自体誰にも把握されていなかったのだろうが。
「だが、俺も退けんッ!」
どちらも譲らなかった結果は、意図せぬ共闘。いや、それを共闘と言っていいのか、残った魔物を奪い合うように倒しただけと言った方が早かったかもしれない。
「ぬおおおおッ!」
「くっ」
驚くほど簡単に魔物を倒してゆく姿に俺は内心で舌を巻く。俺とて可能な速さではある。速さではあるのだが、ひょっとしたら、まさか、出来れば違うと思いたいにもかかわらず、頭の冷静な部分は言う、俺とほぼ互角だと。
「やるなッ」
こちらが非常に不本意であるという心情を取り除けば、その認識はどうやら変態も同じようであった。むろん、変態から賞賛されてもうれしくない。
「終いだ――」
奪うような競い合いになったが故に最後の魔物へトドメを刺したのは、想定より早く。
「しかし、討伐の証明として依頼者に骸を見せようにも持って行けるのは半分か……」
変態の取り分は、「新しい攻撃魔法を試したら威力が高すぎて消し飛んでしまい何も残らなかった」とするしかないか。とりあえず、恰好はともかく行動は善性のモノであるし、何よりこんな変態と知り合ったなどと、口にはしたくない。
「そもそもなんなんだ、アレは」
不意にそちらを見やれば、変態は徐に両腕を広げスキップでもするような動きで円を描くように倒した魔物の骸の周りをまわり始めていたのだから。
「説明しようッ! これは、戦いの神への感謝を込めた『勝利の舞』だッ!」
思わず口にしたことを俺が後悔したのは、謎の奇行を終了した変態が答えつつ歩み寄ってきたから。
◇
「だいたい、そんなところか……」
これが、即興で考えたましゅ・がいあーと俺との出会いの話であった。
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